宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)のような微小重力環境に滞在すると、心循環系、骨代謝系、筋骨格系など様々な系に不具合がおこる。これらを総称して宇宙デコンディショニング(Space flight deconditioning:SD)と呼ぶ。宇宙飛行士は、SDを回避するために、1日に2~3時間の運動をISS滞在時に行うことを義務化されているが、すべての系のSDを防止できるには至っていない。 岩瀬らは、SDに対する対抗措置として、半径2mの棒状回転体を回転させることにより生じる遠心力を利用した人工重力負荷装置に、下肢エルゴメータ運動負荷装置を組み合わせた「人工重力+運動負荷装置」を考案し作成した。申請者らは、岩瀬と共に20日間の模擬宇宙環境暴露(-6°ヘッドダウンベッドレスト;HDBR)実験中に上述の装置を用いた対抗措置を連日(1日に30分)行わせ、本装置の有効性を検証した。その結果、本装置を用いた対抗措置によりほとんどの系のSDを防止できるとの結果が得られ、これが2009年にJAXAが公募した国際公募にも採択された。しかしながら、ISSでの運用施設のスペースの関係から、同じディメンションでより小型化された装置に改良する必要性が生じ、2013年に半径1.4mに改良した。 申請者らは、2013年と2014年に改良型の装置を用いた対抗措置を10日間の-6°HDBR実験中に連日に行わせた。その結果、心循環系の指標である耐Gスコアには改善傾向がみられたが、骨代謝系のパラメターには、対照群(非対抗措置群)との間に有意差がみられなかった。これらの原因として、①-6°HDBRの期間が10日間と短かったことや、②装置の小型化に伴い、人工重力負荷の強度(回転数)が不十分であったことなどが考えられ、今後更なる追加実験が必要であるとの結論を得た。
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