研究課題/領域番号 |
23590290
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
重吉 康史 近畿大学, 医学部, 教授 (20275192)
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研究分担者 |
鯉沼 聡 近畿大学, 医学部, 助教 (10340770)
筋野 貢 近畿大学, 医学部, 助教 (30460843)
升本 宏平 近畿大学, 医学部, 助教 (60580529)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 視交叉上核 / 同期 / 概日リズム / VIP / Vpac2 / cAMP |
研究概要 |
視交叉上核における発振細胞間の同期機構を探ろうとする研究課題である。記載して計画に従って発光によって概日リズムを検出できるPer2プロモーター::ルシフェラーゼ遺伝子を導入したトランスジェニックラットの視交叉上核のスライス培養を用いて検討を行った。今回、我々はいくつかの方法によって視交叉上核内部の発振細胞間の同期を破壊することに成功した。その結果、領域間に周期差が存在し、短周期から長周期にいたるグラデーションが存在することを明らかにした。 視交叉上核の発振細胞間においてはアデニレートサイクレースによって産生されるcAMPが同期達成のために必要とされるシグナル伝達の中核であることが知られている(Maywoodらによる。)。よって、cAMPをもちいたシグナル伝達系の操作によって同期を破壊することを考案した。Forskolin(FK)はアデニレートサイクレースの活性を上昇させてcAMPを弛張的に上昇させる。そこでFKを投与して領域を細分化して周期を計測すると、視交叉上核内部の同期が破壊され、内側に短周期の領域が外側に長周期の領域が存在することが明らかになった。さらに、FKを用いない状態で領域間に周期差が存在するかを明らかにするために視交叉上核を細説して切片ごとの周期を捉えた。この周期差は吻尾側では尾側に24時間より短い領域が吻側に24時間より長い領域が存在した。また内外側方向では内側に短周期の領域が外側に長周期の領域が存在した。CCDカメラでの観察では細切された小領域のすべてが同期していることが明らかになり、視交叉上核の同期が非常に局所的な結合によって成り立っていることが示された。これらの局所的同期に関与する可能性のあるVIP/VPAC2以外のリガンド、リセプターについてはすでにin situ hybiridizationを用いて平行して検出作業を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでにVpac2, カルシトニン受容体、RGS16遺伝子などの視交叉上核内部局在の検討を終了している。これらのいずれの遺伝子も背内側部に高発現していた。また、そのリガンドであるカルシトニン、VIPは腹外側部に発現していることも明瞭に捉えられた。このような知見は今後領域内での同期を達成している仕組みを検討するために、領域における結合様式の相違を示唆するものであり重要な知見である。 同期機構の解明のためにForskolinを加えて恣意的に同期を破壊する方法を開発するなど意義深い進展があった。また、スライス培養された視交叉上核を細断したのちの、微少領域における同期機構の保持は局所的な結合(local coupling)を示唆する。 一方では、局所における同期の達成がどのような機構で行われているのか、とくに領域特異的に発現するペプチドなどのリガンドがどのような役割を話すのかについて実際の組織を用いた検討がやや遅れている。これは機器の不足に夜ものであり、今後、さらに資金を得る必要がある。また、明暗周期シフト後のin vivoで認められた脱同期(J. Neurosaci. Nagano, shigeyosni et al. 2003)をスライス培養系にて再現しようとしたが、in vitroの状態では内部の腹外側部、背内側部位相差を検出することができなかった。別の実験系を開発する必要があると思われた。
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今後の研究の推進方策 |
体内時計中枢の同期機構にテーマをあてて進める。昨年度の検討によって、視交叉上核を微少領域に裁断しても同期が保たれて発信可能であった。これは視交叉上核のアモルファス性を示しており、反応物質の拡散によって同期が成し遂げられていることを示唆する。このような局所的な結合様式がどのような仕組みによって支えられているのかについて探求を進める。一方で、視交叉上核における遺伝子発現の多様性、視交叉上核外からの神経結合の局在を考えると、視交叉上核における微少領域における機能分化について注目する必要がある。我々が技術的優位にある形態学的技術を駆使して、視交叉上核内部の小領域の機能探索を行う。また、視交叉上核における領域マーカーの探索も今後の課題である。視交叉上核内側部に存在する短周期領域は現在、我々が発現の局在をin situ hybridizationで確診しているどのような遺伝子とも近似した局在を示さない。特有の領域マーカーを見いだすことによって短周期を発信する機構について迫ることができると考えられる。さらに数理的検索を加える。視交叉上核が発振する概日リズムは、数理的に記述が可能なリミットサイクルと呼ばれる現象であると見なされている。リミットサイクル間の同期については、数理的研究が蔵本らによって進められており、そこに現れた数理的同期現象が視交叉上核内部にも現出しているか検討をすすめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度はスライス培養にて領域間の同期の仕組みを把握することを主体として検討を勧める。よって培養用品に 60万円を計上した。形態学用品一式としてin situ hybridization, 免疫組織化学などの形態学的検索のために40万円を計上した。ラットを飼育するために30万円を計上した。研究成果の発表を国内外の学会で行うための出張費、学会参加費として30万円を計上する。
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