研究課題/領域番号 |
23590290
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
重吉 康史 近畿大学, 医学部, 教授 (20275192)
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研究分担者 |
鯉沼 聡 近畿大学, 医学部, 助教 (10340770)
筋野 貢 近畿大学, 医学部, 助教 (30460843)
升本 宏平 近畿大学, 医学部, 助教 (60580529)
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キーワード | 視交叉上核 / 概日リズム / cAMP / 位相波 / シミュレーション |
研究概要 |
同期機構の解明のためにForskolinを加えて恣意的に同期を破壊する方法を開発するなど一昨年度までに大きな進展があった。昨年度は非同期となった視交叉上核における微少領域の解析によって周期の短い発振子の存在する領域をつきとめることができた。これを短周期領域(SPR)と名付けた。 Per2::dlucラットによって発光をモニターすることによって微少領域ごとの概日リズムの採取を行ったところ、視交叉上核の内側に周期の遅い領域がクラスターを作り、その部分から外側に伝播する位相波が出現することが明らかになった。この領域を短周期領域(short period region; SPR)と名付け、それより外側の周期の長い領域を(long period region; LPR)とした。この時点でこのSPRが位相波を作り出す仕組みを明らかにするために数値的シミュレーションにて再現しようとした。視交叉上核画像を格子上に細分化しおのおののグリッドに振動子を一つずつ配置した。すなわち、格子を仮定し、おのおののグリッドに振動子を配置する。短い周期の振動子を集めた領域を仮定した。また、おのおのの振動子は蔵本らが提唱するリミットサイクルを表現可能な位相方程式によって表現された。その結果、位相波が再現できた。この場合ある程度以上の結合の強さがないと位相波は現れない。また、短周期領域をランダムに配置しても生体で見られるような内側から外側に至る位相波は現れない。 これらの内容をまとめ、学会での発表を三回行った。うち一回はシンポジウムでの発表である。また、論文を投稿し現在査読者から良好な反応を得ている。改訂について対応しておりまもなく論文が受理される見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視交叉上核内部の同期機構にせまることを目的とする課題である。FKの投与によってcAMPの細胞内濃度を上昇させることによって視交叉上核における細胞間の同期を断ち切ることができた。そのことによって内側の小領域に短周期の発振細胞がそれより外側を占める比較的大きな領域に24時間より長い周期の発振細胞が存在することが明らかになった。数値的シミュレーションを行う事によって、これらのクラスター化した短周期発振細胞と長周期発振細胞によって位相波が生み出されることが示された。これは視交叉上核研究において大きな進展である。とくに視交叉上核に観察される伝達される波、位相波の形成機構について明らかにしたのは初めてであり大きな評価を得た。この点で当初の目的である同期機構の解明についてはかなり充足していると考える。 一方では、局所における同期の達成がどのような機構で行われているのか、とくに領域特異的に発現するペプチドなどのリガンドがどのような役割を果たすかについて実際の組織を用いた検討については予定通りに進展していない。昨年と同様、発光モニターが可能な機器が不足していることによるものであり、本年度は視交叉上核におけるFKによる脱同期状態の観察に時間と資金を投入せざるを得なかった。高額な機器であり、資金が必要である。また、明暗周期シフト後のin vivoで認められた脱同期(J. Neurosaci. Nagano, shigeyosni et al. 2003)の再現についても良好な結果を得られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
体内時計中枢の同期機構にテーマをあてて進める。一方最終年度であることから 成果の学会発表、論文発表を行う。現在、位置論文が投稿中であり、査読者からの良好な反応を得、指示に従い改訂を行っている。昨年と同様視交叉上核における微少領域における機能分化について注目する必要がある。我々が技術的優位にある形態学的技術を駆使して、視交叉上核内部の小領域の機能探索を継続する。また、視交叉上核における領域マーカーの探索は本年度は短周期領域SPRに絞って検索を行う。視交叉上核内側部に存在する短周期領域は現在、我々が発現の局在をin situ hybridizationで確診しているどのような遺伝子とも近似した局在を示さない。特有の領域マーカーを見いだすことによって短周期を発信する機構について迫ることができると考えられる。この位相波は視交叉上核が日長を捉える仕組みと密接に関わっていることが、最近の我々の研究結果から示唆されており、さらに検討を勧めることによって朝時計、夕刻時計の局在が明らかになる可能性がある。このような検討を加えながら、現在、リバイズ中の論文、および著作での発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験動物の飼育費として10万円を計上する。また、視交叉上核からの発光を観察する冷却CCDカメラとして用いているセルグラフについてのリース費用が必要である。リース支払いに30万円を計上する。また、研究発表のための学会参加費および旅費に10万円を計上する。
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