研究課題
心血管病の性差の分子機構を解明することを目的とし、発生段階・再生心筋における性差に注目して研究を行った。1)ヒトiPS心筋については、細胞ごとの活動電位波形のばらつきの一因として,成体心室筋細胞と比較して,活動電位の立ち上がり速度が遅く,最大弛緩期膜電位が浅いことを見出した。最大弛緩期膜電位を深くするタンパクを過剰発現することにより,自動能は完全に消失し,刺激により発火する心室筋様の活動電位を計測することに成功した.本システムは,心室筋の再分極に作用する薬剤の作用解析に非常に有用なツールとなると考えられる.2)野生型胎児マウスの発生段階ごとの冠動脈走行を雌雄差を解析する為,インク微小注入による血管造影法を用いて比較検討した。ICRやC57BL6/JマウスE17.5を用いた実験から、左冠血管(LCA)の径に雌雄差が見られることを明らかにしてきた.C57BL6/Jマウスでは、雌において主枝の径が有意に短く,血管弛緩薬の投与により雌の主枝が弛緩して雌雄差が消失した.この雌雄差は収縮機構の違いによると示唆され,弛緩薬のうちCa拮抗薬が良く作用した。さらに,Y染色体上の精巣決定遺伝子Sryの自然発症欠失変異と常染色体上へのTGを組み合わせることで表現型が性転換するマウスでも同様の雌雄差が確認できるか検討中である。3)本年は,成体で見られる性差(雌雄差)と胎児期もしくは幼児期に見られる性差(雌雄差)のメカニズムが同じであるかどうか,アレイデータベースから検討することに着手した。まずは,各種正規化法を使用することにより,論文で既報の変動遺伝子より圧倒的に多くの遺伝子群を同定できる方法を確立した.
1: 当初の計画以上に進展している
1)ヒトiPS由来心筋での性差の解析;当初の目的は活動電位波形の解析と薬物作用の解析までの予定だったが,ヒトiPS由来心筋の未熟な性質故に薬物作用解析は思うように進まなかった.そこで,新たな蛋白導入を発案したところ,薬物作用解析に適したiPS心筋を得ることに成功した.この細胞は,心筋活動電位再分極相に作用する薬剤全般に適応可能であり,不整脈誘発物質のin vitroスクリーニングアッセイ系としての応用が期待できる.2)冠血管脈管形成の性差の解析;当初の目的通り,トランスジェニックマウスでの解析を開始することができた。繁殖が難しいマウスであるが,現在のところ当研究室では繁殖に成功している.3)マイクロアレイデータベース解析;この実験は当初の予定にはなかったが,他研究費の計画遂行のために学んだアレイ解析のノウハウを今年度から新たに発生学的解析にも導入した.主に、血管に作用する遺伝子群に注目してq-PCR解析も行っている.
1)ヒトiPS由来心筋での解析;前年度は,活動電位測定でのばらつきが大きかったため、男性由来、女性由来の細胞を比較解析するのは得策ではないと判断した。しかし今年度のブレイクスルーにより,再分極過程は安定して検討可能となった.そこで,これまで申請者は性ホルモンによるイオンチャネルの機能制御が不整脈発症の性差に関わる事を示唆する結果を発表してきたので、再分極過程に対する性ホルモンの作用を検討することとする。今年の1月には,FDAが初めての男女別薬物投与量設定を発表した.これは,女性での副作用発現が顕著であったことに起因する.ヒトiPS由来心筋は、薬物による心臓突然死の毒性試験への応用について急速に研究が進められてきており、その流れの中で性差について解析するのは益々重要であると考えられる。薬物による心臓突然死のうちQT延長によるものがよく知られるが、男性より女性で約2倍以上の頻度であることが知られている為、毒性試験において性ホルモンの影響を反映させることで、試験の精度向上に役立てることを期待する。2)冠血管脈管形成の性差の解析;平成25年度は,トランスジェニックマウスの解析を中心に行う.これまでに見出した冠血管の主枝と分枝の径と血管弛緩薬反応性の雌雄差が、内分泌由来と性染色体由来であるかどうかを比較検討する。3)発生段階で変動する血管関連遺伝子群の性差をマイクロアレイ解析することにより新規メカニズムの探索を行う。
今年度はiPS由来心筋の実験が大きく進展したため,トランスジェニックマウスの実験の開始を遅らせた.当初の予定より繁殖を抑えたため,動物関連の消耗品が一部次年度に繰り越されることとなった.次年度は,主にトランスジェニックマウスを用いた冠血管の解析を行うため,申請した使用計画を変更することなく,研究費を使用する予定である.現在,そのトランスジェニックマウスは順調に繁殖しており問題ない.実は、そのトランスジェニックマウスが飼養されている施設が7月末に閉鎖するため,本学他施設にマウスを移動する予定である.よって,次年度は本トランスジェニックマウスの移設費もマウス管理費に含まれることとなる.
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http://www.tmd.ac.jp/mri/cph/index3.html