研究課題
本研究は、神経保護や神経分化に関連する機能を持つ転写因子Neuronal PAS domain 4 (NPAS4)がストレスにより発現抑制するメカニズムを解明することを目的としている。平成23年度は、NPAS4の発現をグルココルチコイド(GC)が抑制することを見いだし、さらにプロモーターアッセイを用いてNPAS4プロモーターにおけるグルココルチコイド受容体 (GR) の作用部位を調べた。3時間の拘束ストレス負荷時にGRアンタゴニストを腹腔投与したところ、NPAS4発現低下が抑制されたことからストレス下で増加するGCがNPAS4発現を抑制することが示唆された。次に、NPAS4のプロモーター領域をルシフェラーゼ cDNAの上流に組み込んだレポーターアッセイプラスミドを用いて、NPAS4プロモーター活性をGCが抑制するかどうかについて調べた。レポーターアッセイプラスミド導入後のNeuro2Aの培地にGRアンタゴニストを添加すると、濃度依存的にNPAS4プロモーター活性が上昇したことから、NPAS4プロモーター活性がGCにより抑制されることが明らかとなった。NPAS4プロモーターには、転写開始点から1~2kb上流の付近にGR が結合する配列であるグルココルチコイドレスポンスエレメント(GRE)が集中しており、この領域を段階的に欠失した変異プロモーターでは活性が著しく上昇した。さらに、クロマチンIPアッセイによってNPAS4プロモーターへのGRの結合も示されたことから、GCによる直接的なNPAS4プロモーター活性抑制が示唆された。以上の結果はストレスからNPAS4の発現抑制に至る機構の一端を明らかにするものであり、現在論文投稿中である。また、ストレス付加マウスの海馬でNPAS4プロモーターのメチル化が亢進していることを示唆するデータも得ている。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度の目標は(1)NPAS4プロモーター活性にグルココルチコイドが及ぼす影響についてレポーターアッセイを用いて解析し、さらに段階的欠失プロモーターを作成してNPAS4プロモーター活性抑制を行う部位を調べる。(2)NPAS4プロモーターのDNAメチル化について解析する。(3)NPAS4欠損マウスの行動解析を行う。であったが、これまでの研究によりグルココルチコイド受容体アンタゴニストがNPAS4プロモーター活性を上昇させることを示し、また段階的欠失プロモーターを用いたレポーターアッセイによりグルココルチコイドが直接的にNPAS4プロモーター活性抑制を行うことを示すなど、NPAS4の発現におけるグルココルチコイドの影響を明らかにできた。また、NPAS4遺伝子メチル化に関する解析でも、ストレス付加によるDNAメチル化上昇を示唆するデータを得ているので、ある程度の成果は得られている。NPAS4欠損マウスにおける行動解析は、現在進行中である。
(1)レポーター発現解析:平成23年度に in vitroでグルココルチコイドがNPAS4の発現抑制を行うことを示したので、今後はさらにそのメカニズムを解明していく。NPAS4プロモーターの段階的欠失変異導入により確定した領域のGREに部位特異的変異導入を行い、レポーター発現解析によりグルココルチコイドがNPAS4プロモーター活性に影響を及ぼす部位をさらに詳細に解析する。またin vivoでのグルココルチコイドのNPAS4プロモーター抑制効果を検証するため、ストレス付加による生体内でのGRのNPAS4遺伝子への結合の変動について、マウス脳サンプルを用いてクロマチンIPアッセイを行い解析する。(2)エピジェネティクス解析:ストレス刺激が精神に及ぼす影響は長期間に渡り持続することが知られている。その持続にはDNAメチル化亢進の維持が要因としてあげられているため、ストレスによるNPAS4遺伝子メチル化上昇が、ストレス付加後どの程度の期間持続するのかについて解析する。また、副腎除去動物についてストレスを負荷し、NPAS4の発現変動を調べる。また、副腎除去がNPAS4プロモーター領域のヒストンアセチル化などの修飾レベルへおよぼす影響やDNAメチル化レベルへおよぼす影響を解析し、ストレスが内分泌系を介してエピジェネティック制御を変動させる可能性について追究する。さらに、ストレス負荷動物にDNA脱メチル化剤や精神疾患治療薬を投与し、NPAS4プロモーター領域のDNAメチル化レベルの確認を行うと共に、行動薬理学的解析で精神疾患様行動の発現について調べていく。(3)NPAS4欠損マウスのin vivo解析NPAS4遺伝子欠損動物の行動試験を継続して行うと共にNPAS4遺伝子欠損マウスの神経系の発達を抗体染色法やゴルジ染色法で解析する。
・NPAS4のプロモーター解析に用いるレポーターアッセイ用試薬や、部位特異的変異導入に用いるPCR試薬や各種制限酵素、DNA大量調整用のキット、細胞培養に必要なプレートと培地や血清を購入する。またクロマチンIPアッセイのためにキットや各種抗体を購入する。また、NPAS4プロモーター領域のDNAメチル化解析に用いるPyroMarkシステム用解析用試薬やプレート、オリゴヌクレオチドを購入する。生化学的解析に用いる各種抗体や各種インヒビターを購入する。・生体内におけるNPAS4プロモーターとグルココルチコイド受容体等各種制御因子の結合を調べるため、また行動試験を行うためのマウス購入と飼育費用に使用する。In vivoにおける免疫組織学的解析のため各種試薬を購入する。・旅費として、これまで得た結果について6月3~7日にスウェーデンで行われる国際神経薬理学会CINPで研究成果発表を行うため使用する。さらに、日本神経科学学会大会、日本神経精神薬理学会年会、日本分子生物学会年会、日本薬理学会年会、および日本薬学会年会における研究成果発表のために使用する。
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Behavioural Brain Research
巻: 220 ページ: 271-280
巻: 225 ページ: 222-229