カチオン―クロライド共輸送体(CCC)は細胞膜を介するイオンの輸送を司り、細胞内イオンの濃度を調節することによって、細胞応答、イオン恒常性、増殖などの様々な生理現象に関与する。そして、CCCは複数の遺伝性疾患の原因遺伝子であり、利尿薬の作用点である。しかし、CCCのイオン選択性、イオン輸送、作用薬の作用発現機序、遺伝性疾患の発症機構の詳細は不明であった。本申請研究の目的は、古細菌メタノサルキナ属C2A由来のCCCホモログをモデル分子としたCCCの機能解析であった。本ホモログは異所性発現が可能であり、熱安定性に優れていたが、不安定な発現がネックとなり、十分な研究が遂行できなかった。そこで、本年度は低濃度のK+を含む培地では生育できないK+輸送体欠損酵母株を導入した。本株は機能的なK+輸送体が発現すると低濃度のK+を含む培地で生育する。そのため、本酵母株でのCCCの機能的発現は、本株の同培地での生育を促すことが期待された。8種類のヒトCCCを検討したところ、3種のCCCが本株の生育を促した。これは本酵母株におけるCCCの機能的な発現を示している。現在、これらのCCCの活性を修飾する薬物との相互作用を検討している。 カリウム輸送体蛋白質である内向き整流性カリウムチャネルに関する昨年度までの電気生理学、構造生物学的解析から、チャネル細胞質領域のサブユニット集合中心部に位置するポアはイオン透過を阻害する程の強い負の静電ポテンシャルを呈し、イオン透過にはそのポテンシャルを減弱させることが必須であることを報告した。本年度は、細胞質領域ポアの拡張を支える構造変化と、その分子作動と機能との連関を検討した。その結果、ポアを構成するβシートが柔軟な構造を持つこと、そのシートはチャネル活性化因子との相互作用に依存して動くβストランド、膜貫通領域と共に動くβストランドから構成されていることが判った。
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