前年度までの解析で、肥満細胞の活性化が、骨組織のオメオスタシスに影響を及ぼし、特に破骨細胞の活性化を誘導することで、関節炎や骨粗鬆症の発症進展に重要な役割を果たしている可能性を明らかにした。しかしながら、肥満細胞から分泌されるどの因子が主体的な役割を果たしているのかは不明であった。そこで、肥満細胞から分泌されるタンパク分解酵素の一つであるキマーゼに注目して、コラーゲン誘発関節炎マウスを用いたキマーゼ阻害薬の治療効果を解析した。キマーゼは様々な細胞外マトリックスを分解し、更に多様な活性因子の作用を改変する肥満細胞の特異的プロテーゼである。このキマーゼの阻害薬を関節炎を発症したマウスに4週間投与したところ、関節炎の進展を有意に抑制できた。また肥満細胞数も顕著に減少した。関節炎組織中のTNF-alpha、Chymase、SCF、及びIL-6mRNAレベルは減少した。更に、キマーゼ阻害薬の投与により破骨細胞数も有意に減少した。以上の結果より関節炎の病態発症機構において、肥満細胞が関節炎の発症進展と破骨細胞の増殖活性化に重要な役割を担っていることを始めて明らかに出来た。関節炎の治療のために現在使用されている薬物は、ある程度の有効性は確立されいるが、必ずしも全ての症例に有効性を発揮出来るわけではなく、また副作用の問題から十分な治療効果が得られない事例も多い。将来的に、肥満細胞の活性化を抑制出来る治療薬を臨床の現場で使用することが可能になれば、新しい観点から関節炎の治療効果を高めることが期待出来ると考えている。
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