研究概要 |
本研究の最終的な目的は、腎障害におけるミネラロコルチコイド受容体の役割について、その全容を解明することである。初年度はミネラロコルチコイド受容体活性化による近位尿細管細胞の障害が、炎症を介する尿細管間質障害の根本であることを証明するため、全身GFP発現マウスに対してストレプトゾトシンを投与して糖尿病性腎症を生じ、イナクチン麻酔下に多光子レーザー顕微鏡によって近位尿細管部位の間質における白血球と血小板の動態を観察し、炎症の状態を可視化することを目的としていた。これに際して、まず多光子レーザー顕微鏡にて腎臓を評価する手技を確立した。しかし、全身GFP発現マウス搬入時の遺伝子動物関連手続きに時間を要したため、まだ十分な結果が出ていない。そのため、正常ブラックマウスにストレプトゾトシンを投与して上記検討を行った。その結果、糖尿病の発症とともに近位尿細管を中心として、SA-beta-Gal染色による老化が生じており、腎組織中のp21, p53, sirt1, sirt2などの遺伝子発現が増加していることを明らかとした。これと並行して培養マウス糸球体上皮細胞とヒト近位尿細管細胞において、ミネラロコルチコイド受容体の活性化が酸化ストレスを介して老化を生じていることを見出した。興味深いことに、酸化ストレスが亢進している状態では、アルドステロンのみならず、グルココルチコイドもミネラロコルチコイド受容体を活性化し、細胞の老化を生じることを明らかとした。これらの研究結果の一部は、Am J Hypertens.に発表され、平成24年度日本高血圧学会総会とHigh Blood Pressure Councilにて発表される予定である。また、交付された助成金はすべて消耗品に対して使用された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は平成23年度で行った正常マウスに対してストレプトゾトシンを投与して糖尿病性腎症を発症させたモデルにおいて、抗酸化剤であるテンポールの効果について検討する。また、平成23年度に引き続き、全身GFP発現マウスにおける可視化実験も引き続き行う。これらの実験終了後、腎臓を摘出して腎保護効果について組織学的検討をおこなうとともに、組織のSA-βGal染色やp21, p53, sirt1, sirt2などの遺伝子発現を測定して、老化関連因子について検討する。また、これに並行して培養細胞における実験により、ミネラロコルチコイド受容体活性化による細胞老化作用において、酸化ストレスと老化発症のKEYとなる要因として、それぞれNADPHオキシダーゼ関連因子(p22phox, gp91-phox, Nox1, Nox4, p47phox, 他)と老化因子(p21, p53, sirt1, sirt2, 他)の中から、特に重要なものを同定する。そこで、同定された因子を遺伝子的にノックダウンすることによって、MRを活性化しても酸化ストレスと老化が生じないのかについて確証実験をおこなう。これら培養細胞による詳細な検討によって、糸球体上皮細胞と近位尿細管細胞における、MR活性化による酸化ストレスを介した老化作用の詳細な分子生物学的メカニズムを明らかとしたい。
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