研究課題
一酸化窒素合成酵素(NOS)には、神経型(nNOS)・誘導型 (iNOS)・内皮型(eNOS)の3種類の異なったNOSアイソフォームが存在する。申請者は、すべてのNOSs遺伝子を欠損させたNOSs完全欠損マウスを創出した。本研究では、このマウスを用いて、生体の恒常性維持機構におけるNOSs系の役割を、特に臓器連関の観点から解明することを目的とした。 骨髄由来血管前駆細胞が、血液中を循環し、血管壁に付着して、血管細胞に分化増殖し、動脈硬化を惹起することが明らかにされている。本研究では、骨髄由来血管前駆細胞の一酸化窒素合成酵素(NOSs)が動脈硬化の成因に重要な役割を果たしているという仮説を検証した。 野生型マウスおよびNOSs完全欠損マウスを使用した。骨髄移植1ヶ月後に左側頚動脈を結紮し、2週間後の血管病変形成の程度を評価した。 頸動脈結紮後の血管病変形成は、野生型マウスの骨髄を移植した野生型マウスと比較して、NOSs完全欠損マウスの骨髄を移植した野生型マウスで、著明に増悪していた。さらに、結紮頸動脈のNOSs活性も、野生型マウス骨髄移植後の野生型マウスに比して、NOSs完全欠損マウス骨髄移植後の野生型マウスで、著明に低下していた。 本研究において、骨髄NOSs欠損が血管病変形成を増悪させることを初めて明らかにした。以上より、骨髄由来血管前駆細胞のNOSsが重要な血管保護的役割を果たしていることが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
血管骨髄連関におけるNOSs系の役割の解明については、骨髄移植実験を施行し、骨髄NOSs欠損が血管病変形成を増悪させることを明らかにした。この結果から、骨髄由来血管前駆細胞のNOSsが重要な血管保護的役割を果たしていることが示唆された。この研究成果は、論文化して、昨年 Nitric Oxide誌に発表した。 一方、血管骨髄連関におけるNOSs系の役割の解明については、慢性腎臓病モデル(4/6腎臓摘出)の生存率に対する影響を検討したところ、野生型マウスの生存率は、偽手術群と4/6腎摘群で差はなかったが、NOSs完全欠損マウスの生存率は、偽手術群に比して4/6腎摘群で著明な低下を認めた。重要なことに、偽手術群の死因は心筋梗塞が40%であったが、4/6腎摘群の死因は心筋梗塞が75%と高率に認められた。これらの結果は、NOSs系が慢性腎臓病の成因に重要な役割を果たしていることを示唆する世界初の知見である。現在、「心腎連関の機序に、循環血液中の血管前駆細胞が関与している」という我々の仮説を、フローサイトメトリーにおけるSca-1+/c-Kit-/Lin-細胞を解析して検討中である。
血管骨髄連関におけるNOSs系の役割の解明については、慢性腎臓病モデル(4/6腎臓摘出)の生存率に対する影響をさらに症例を重ねて検討し、死因を病理学的に解析する。また、分子機序を明らかにするために、心腎連関の機序に循環血液中の血管前駆細胞が関与しているか否かを、フローサイトメトリーを用いて、Sca-1+/c-Kit-/Lin-細胞を解析して検討する。さらに、NOSs完全欠損マウスにおける4/6腎臓摘出後の急性心筋梗塞発症の機序にアンギオテンシン1型受容体経路が関与しているか否かを、急性心筋梗塞発症率に及ぼすアンギオテンシン1型受容体拮抗薬の長期経口投与の効果を検討して解析する。 また、NOSs非依存性NO産生機構の解明については、現在、硝酸塩からNOSs非依存性にNOが産生される機序の解明を進めている。
次年度の研究費は、主に物品費および旅費に充てる予定である。物品費は、マウスの遺伝子型確認のためのPCR試薬や器具の購入費、研究試薬や器具の購入費、および測定キットの購入費に使用する予定である。また、旅費は、研究成果の発表、および共同研究の打ち合わせのために使用する予定である。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (2件)
Nitric Oxide
巻: 25 ページ: 350-359
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