研究課題
従来、動脈硬化は、血管壁細胞が異常増殖して引き起こされると考えられてきた。しかし、最近、骨髄細胞が血管前駆細胞に分化し動脈硬化を惹起することが示された。骨髄にはすべてのNOSsが発現しているが、「骨髄-血管連関」におけるNOSs系の役割は不明である。本研究では、この点を、骨髄移植実験および頸動脈結紮モデルにおいて検討した。野生型マウスの骨髄を移植した野生型マウスに比し、NOSs系完全欠損マウスの骨髄を移植した野生型マウスでは、頸動脈結紮後の血管病変形成が著明に増悪した。逆に、NOSs系完全欠損マウスの骨髄を移植したNOSs系完全欠損マウスに比し、野生型マウスの骨髄を移植したNOSs系完全欠損マウスでは、頸動脈結紮後の血管病変形成が著明に軽減した。以上より、骨髄由来血管前駆細胞に発現するNOSs系が血管病変形成において抑制的に作用することが初めて示唆された。創薬に有用な自然発症急性心筋梗塞(AMI)モデルは存在しない。NOSs系完全欠損マウスはAMIを発症するが、残念ながら、発症には約1年と長期間を要し、且つ、死亡したマウスの40%にしかAMIは認められず、創薬研究に有用なモデルでは無い。本研究では、NOSs系完全欠損マウスにおける腎臓亜全摘の効果を検討した。野生型マウスでは、2/3腎臓摘出術(NX)は偽手術(sham-ope)と比較して生存率に影響を与えなかった。しかし、NOSs系完全欠損マウスでは、2/3NXはsham-opeに比して生存率を著明に悪化させ、ほぼすべてのマウスが術後4ヶ月以内に突然死した。死因の病理学的検索では、84.6%のマウスがAMIで死亡していた。この2/3NX NOSs系完全欠損マウスは、創薬に有用な世界初の自然発症AMIモデルである。本研究は、「心腎連関」の機序におけるNOSs系の役割を初めて明らかにした点においても学術的な意義がある。
2: おおむね順調に進展している
血管骨髄連関におけるNOSs系の役割の解明については、骨髄移植実験を施行し、骨髄NOSs欠損が血管病変形成を増悪させることを明らかにした。この結果から、骨髄由来血管前駆細胞のNOSsが重要な血管保護的役割を果たしていることが示唆された。この研究成果は、論文化して、2011年に Nitric Oxide誌に発表した。一方、血管骨髄連関におけるNOSs系の役割の解明については、慢性腎臓病モデル(2/3腎臓摘出)の生存率に対する影響を検討したところ、野生型マウスの生存率は、偽手術群と2/3腎摘群で差はなかったが、NOSs完全欠損マウスの生存率は、偽手術群に比して2/3腎摘群で著明な低下を認めた。重要なことに、偽手術群の死因は心筋梗塞が40%であったが、2/3腎摘群の死因は心筋梗塞が84.6%と高率に認められた。これらの結果は、NOSs系が慢性腎臓病の成因に重要な役割を果たしていることを示唆する世界初の知見である。現在、既存の薬物の評価系の確立を目指して研究を行っている。これまでの研究成果は、今年3月の日本循環器学会学術集会において発表した。
これまでの研究において、2/3腎摘NOSs完全欠損マウスが世界初の自然発症急性心筋梗塞モデルであることを明らかにした。現在、分子機序の解明のために、骨髄由来血管平滑筋前駆細胞の動態をフローサイトメトリーで解析している。また、既存の薬物の評価系を確立するために、当該マウスの急性心筋梗塞発症率に対するアンギオテンシン1型受容体拮抗薬イルベサルタンおよびカルシウムチャネル阻害薬アムロジピンの長期投与の効果を検討している。これらをまとめて、本年度中に論文化する予定である。
次年度の研究費は、主に物品費および旅費に充てる予定である。物品費は、マウスの遺伝子型確認のためのPCR試薬や器具の購入費、研究試薬や器具の購入費、および測定キットの購入費に使用する予定である。また、旅費は、研究成果の発表、および共同研究の打ち合わせのために使用する予定である。
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