研究課題/領域番号 |
23590306
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
吉栖 正典 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (60294667)
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キーワード | 糖尿病性微小血管障害 / c-Src / MAPキナーゼ / アンジオテンシンII / 血管平滑筋 / 細胞遊走 |
研究概要 |
本邦では、予備軍も含めて1870万人ともいわれる糖尿病患者の増加に伴い、糖尿病性微小血管障害による網膜症や透析患者、下肢切断患者も急増しその対策は急務である。最近我々は、糖尿病性微小血管障害の根底をなすインスリン抵抗性に、ガン遺伝子産物c-Srcを介したMAPキナーゼの活性化が関与していることを明らかにした(Exp. Cell Res. 308:291-299, 2005)。本研究では、「糖尿病性微小血管障害の細胞内メカニズムとしてc-SrcとMAPキナーゼが重要である」という仮説を立て、その証明とc-SrcおよびMAPキナーゼの阻害による新しい糖尿病合併症の治療法を確立することを目標としている。 脈管作動物質であるアンジオテンシンII(AII)は血管収縮やアルドステロンの放出刺激を介して高血圧を誘発するが、さらに血管のリモデリングや糖尿病性微小血管障害に関与することが知られている。そこで本年度はAII刺激による培養ラット大動脈平滑筋細胞 (RASMC)内情報伝達系と細胞遊走におけるSrcチロシンキナーゼの役割について明らかにする目的で、Src阻害薬PP2とSrc siRNAを用いて、AII刺激によるMAPキナーゼ活性化に対する阻害効果と細胞遊走に対する効果を比較検討した。その結果、Src siRNAはRASMCにおけるAII刺激によるERK1/2活性化を中程度に抑制し、JNKの活性化の阻害はERK1/2の阻害より顕著であった。次に,Src siRNAによるAII刺激によるRASMCの遊走の阻害の程度はSrc阻害薬のPP2と同程度に強力であり、Src遺伝子のsilencingがRASMCの遊走阻害に効果を示すことが明らかになった。 本研究成果より、AIIによる糖尿病性微小血管障害の進展にSrcが関与している可能性が高く、Srcが糖尿病合併症の治療ターゲットになりうることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
糖尿病における治療は、血糖値を降下させる糖尿病そのものの治療に加えて、糖尿病合併症の治療も同時に視野に入れてなされるべきである。特に糖尿病の重大合併症のひとつである微小血管障害は、その発症メカニズムもいまだ解明されておらず、大きな治療ターゲットとなる。 脈管作動物質であるアンジオテンシンII(AII)は血管平滑筋細胞囎殖と遊走を引き起こし糖尿病性微小血管障害に関与していることが明らかになってきた。我々の研究から、細胞内分子として、Src、ERK、JNKなどが治療ターゲットとなりうることが明らかになってきた。しかし、その他の細胞内情報伝達分子の関与の可能性がないかより詳細に検討する必要性が生じた。そのため、本年度は本来in vivoでのモデル動物実験を施行する予定であったが、細胞内情報伝達分子をより詳細に検討するため、in vitroの細胞実験をさらに継続して行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究結果から、Srcチロシンキナーゼの阻害や、ERKI/2やJNKなどのMAPキナーゼ阻害が、糖尿病性微小血管障害に関与する可能性のあるアンジオテンシンIIによる血管平滑筋細胞の遊走に対して効果的であることが示された。このことより、MAPキナーゼや Srcチロシンキナーゼの薬理学的又は遺伝子的な阻害が、糖尿病性微小血管障害などAIIが関与する病態に対する新たな治療法になる可能性がある。我々はまた、糖尿病の発症・進展に関与する酸化ストレスがMAPキナーゼのひとつBMK1を活性化することを見い出している。糖尿病性微小血管障害に関わる他の細胞内情報伝達分子の探索と並行して、今後はより直接的なMAPキナーゼおよびSrc阻害をめざし、BMK1 siRNA、ERK siRNA、JNK siRNAやSrc siRNAなどを用いた臨床的な遺伝子治療法の開発に研究を進める予定である。 その目的のため、1)糖尿病モデルラットの臓器、器官を用いたin vitroでの微小血管障害を証明し、BMK1 siRNA、ERK siRNA、 JNK siRNA、Src阻害薬やSrc siRNAなどによる糖尿病合併症の改善と心血管病予防効果を検討する。 さらに、2)実際の臨床病態に近い糖尿病モデルラットに閉寒性動脈硬化症(ASO)を合併した疾患モデル動物を作成し、BMK1 siRNA、 ERK siRNA、JNK siRNA、Src阻害薬、Src siRNAなどによる病態改善効果を検討する予定である。。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、糖尿病性微小血管障害に関わる他の細胞内情報伝達分子の探索と並行して、上記1)で述べた糖尿病モデルラットの臓器、器官を用いたin vivoでの微小血管障害を証明し、BMK1 siRNA、ERK siRNA、JNK siRNA、Src阻害薬やSrc siRNAなどによる糖尿病合併症の改善と心血管病予防効果を検討する。研究費は、研究支援者の雇用費に使わせていただくほか、モデル動物作成や試薬、実験用消耗品の購入費に支弁させていただく予定である。
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