研究課題
本邦での糖尿病患者の増加に伴い、糖尿病性微小血管障害による網膜症や透析患者、下肢切断患者も急増しその対策は急務である。最近我々は、糖尿病性微小血管障害の根底をなすインスリン抵抗性に、ガン遺伝子産物c-Srcを介したMAPキナーゼの活性化が関与していることを明らかにした。本研究では、「糖尿病性微小血管障害の細胞内メカニズムとしてc-SrcとMAPキナーゼが重要である」という仮説を立てて実験を行った。高血圧を誘発する脈管作動物質であるアンジオテンシンII (AII) は血管平滑筋細胞の増殖と遊走に関与しており、糖尿病性微小血管障害の発生にも関与している可能性がある。本実験計画で我々は、AII起因性のSrcチロシンキナーゼ、MAPキナーゼのERK1/2およびJNKの活性化、並びにrat aorta smooth muscle cell (RASMC) の遊走に対するSrcチロシンキナーゼ阻害剤PP2の効果を、SrcチロシンキナーゼsiRNAの効果と比較検討した。PP2はAII起因性のERK1/2及びJNKの活性化を阻害したが、SrcのsiRNAはより低濃度にてそれらを阻害した。また同時に、SrcのsiRNAはPP2と同様にAII起因性のRASMCの遊走を強力に阻害した。これらの研究成果より、遺伝子治療も含めたc-SrcおよびMAPキナーゼの阻害は、糖尿病性網膜症や糖尿病性腎症などの治療標的になりうる可能性が示された。またさらに追加して行った実験結果より、AIIによる細胞増殖を、新規糖尿病治療薬であるGLP-1アナログのexendin-4が抑制することを見い出した。この結果は、糖尿病治療薬の血糖降下作用以外の有用性を示すものであり、現在exendin-4のMAPキナーゼ阻害作用についてさらに検討を加えている。
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Scientific Reports
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http://www.naramed-u.ac.jp/~pha/