研究課題/領域番号 |
23590308
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
大森 亨 昭和大学, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (10276529)
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研究分担者 |
山岡 利光 昭和大学, 大学共同利用機関等の部局等, 講師 (40384359)
廣瀬 敬 昭和大学, 医学部, 准教授 (40307038)
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キーワード | TRAIL / EGFR / EGFR阻害剤 / MET / crosstalk signal |
研究概要 |
Tumor necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand (TRAIL)はTNF superfamilyに属するサイトカインであり、受容体を介して広範囲のがん細胞にapoptosisを誘導するが、正常細胞には影響しない。我々は、非小細胞肺がん治療に使用されているEGFR阻害剤に対する耐性細胞を樹立し、この細胞が親株に比してTRAILに対して約70倍の交差感受性を獲得することを見出した。この分子機構の解析を行うとともに、EGFR阻害剤、TRAIL併用療法の臨床応用の可能性について解析を行っている。 今回使用したEGFR阻害剤耐性細胞PC-9/METではgene amplificationによりc-METの過剰発現をきたし、耐性が誘導されていることが確かめられた。TRAILはapoptotic signalを誘導すると同時に、EGFRとのcrosstalkを介してantiapoptosisシグナルを誘導するため、その抗腫瘍活性は限定的となる。一方、TRAIL受容体はc-MET受容体へのcrosstalkシグナルは誘導せず、その生存シグナルがEGFRからc-METに移行した耐性細胞においては、TRAIL刺激時のanti-apoptotic signalの誘導が減弱していることが交差感受性の原因であることを明らかにした。また、EGFR阻害剤に感受性を有するヒト非小細胞肺がん3株では、EGFR阻害剤にTRAILを併用することで、相加的な抗腫瘍活性の増強作用が認められた。TRAIL受容体からEGFRへのcross talkはFADDおよびSrcシグナルを介すること、anti-apoptotic signalの誘導は、EGFRからPI3Kを介したAkt/NFκB活性化を介して行われることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同じtumor necrosis factor (TNF)ファミリーであるTNFαに対しても、PC-9/MET EGFR阻害剤耐性細胞は親株PC-9に比して約120倍の交差感受性を呈する。TNFα受容体は、ADAM17の活性化を介したEGFR ligandのshedding、Srcの活性化を介してEGFRを活性化し、anti-apoptotic signalを誘導することが知られているが、TRAIL受容体においてもほぼ同様の機序によりanti-apoptotic signalを誘導することを確認した。TNF受容体が正常細胞にも広く分布しているのに対して、TRAIL受容体は腫瘍細胞に特異的であることから、TRAIL受容体とEGFRのcrosstalk signalを阻害することで、がん選択制の高い治療法が開発できると考えている。EGFR阻害剤耐性は非小細胞肺がん治療において大きな問題となっているが、このうち約20%がMETの過剰発現によることが報告されている。特にこれらの患者においては、TRAILのagonistの使用が、耐性克服薬として期待される。一方、EGFR活性化によるanti-apoptotic signalは、Akt/NFκB活性化を介したInhibitor of Apoptosis Protein (IAP)、forkhead protein等の誘導によりおこることを明らかにした。このことから、EGFRシグナルが生存に寄与している腫瘍の治療では、EGFR阻害剤ともしくはPI3K/Akt経路阻害剤とTRAIL agonistの併用療法が有用であると考えられた。これらの結果は、本シグナル伝達機構を利用した併用化学療法の臨床応用につながる成果と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に基づき、TRAIL刺激によるanti-apoptotic siglalの分子機構について、さらに詳細な解析を行う。特に、IAP1の誘導、Forkheadタンパク質によるapoptosis抑制機序について解析する。また併用化学療法の開発としては、TRAILとの併用薬として新規EGFR阻害剤afatinibや抗EGFR抗体であるcetuximab、近年臨床応用が期待されているPI3K阻害剤を用い、各種培養がん細胞のパネルを用いたin vitroのスクリーニングを行い、最適な併用薬について検討する。また、TRAIL agonistについても、ligand以外に活性化抗体、低分子TRAIL受容体活性化薬が開発されてきており、これらについても同様のスクリーニングを行う。さらに、これらの併用療法で有用性が見込まれるものについては、担がんマウスモデルを用いたin vivoの感受性試験を行い、臨床応用の可能性について検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画に基づき、培養がん細胞を用いた感受性試験、分子生物学的解析を行う目的で、直接経費120蔓延のうち約100万円を特異的抗体、細胞培養試薬等の試薬購入、および動物実験で使用するSCIDマウスの購入に充てる。2014年米国癌学会(Annual Meeting of American Association for Cancer Research)において研究成果発表を行う費用として、約20万円を充てる。
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