研究実績の概要 |
染色体相互転座により形成される遺伝子産物BCR-ABL蛋白質は、細胞内で強いチロシンキナーゼ活性を発揮し、細胞増殖を促進、アポトーシスを抑制して慢性骨髄性白血病を引き起こす。近年、BCR-ABL分子標的薬(イマチニブ等)が開発され、優れた治療効果を発揮しているが、一方、薬剤耐性の獲得により治療困難な症例が報告されている。本年度の研究では、薬剤耐性獲得機序におけるToll様受容体4(TLR4)および熱ショック蛋白質の役割について検討を行い、以下の研究成果を得た。 ①Lipopolysaccharide (LPS)は、TLR4 を介してBCR-ABL蛋白質を安定化し、細胞増殖促進シグナル伝達系を増強することによって、イマチニブの効果を減弱することを見出した。 ②LPS刺激は、BCR-ABL蛋白質の成熟化(リン酸化)を促進した。熱ショック蛋白質(Hsp)90は、BCR-ABL蛋白質の成熟化に関与し、蛋白質を安定化することが示唆された。 ③BCR-ABLは、リン酸化依存性にc-Cblによりユビキチン化されプロテアゾームで分解される(Tsukahara and Maru, Blood 2010)。一方、BCR-ABLはc-Cblの自己ユビキチン化を促進して細胞内c-Cbl蛋白質発現を減少させた。イマチニブは、BCR-ABLチロシンキナーゼ活性を阻害することにより、c-Cblの活性を抑制した。すなわちLPS刺激により成熟したBCR-ABL蛋白質は、イマチニブ存在および非存在下、いずれにおいてもc-Cblによる分解を免れることが示唆された。 ④以上の結果から、TLR4刺激は慢性骨髄性白血病の治療上問題となっている薬剤耐性機序の一つとなり得ることが示唆される(論文投稿中)。
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