研究概要 |
細胞内カルシウムイオン濃度制御による新たながん細胞増殖抑制法の確立を目標として、ストア作動性カルシウム流入機構のカルシウムセンサーであるstromal interaction molecule 1(STIM1)のがん細胞増殖における役割を解析した。まず、ヒト扁平上皮がん細胞A431に、STIM1-shRNA plasmidを安定的に導入し、STIM1蛋白質発現レベルとストア作動性カルシウム流入(SOCE)の大きさを指標としてSTIM1ノックダウン細胞株を樹立した。STIM1ノックダウン細胞の増殖、DNA合成能および細胞遊走能はnegative control細胞のそれに比べて有意に低下した。さらに、STIM1ノックダウン細胞をヌードマウスへ皮下移植すると、その腫瘍増生はnegative conrtol細胞に比べて有意に遅延した。STIM1ノックダウン細胞株にshRNA-resistant STIM1 を再発現させると、STIM1の蛋白質発現レベルとSOCEが元のレベルに戻ったが、細胞膜のカルシウム放出活性化カルシウムチャネル(CRAC)を活性化させるために必要なCADドメインを欠くSTIM1 mutantを再発現させても、SOCE、細胞遊走能およびin vivo腫瘍増生能は回復しなかった。以上の結果から、STIM1はヒト扁平上皮がんA431細胞のSOCE、細胞遊走ならびに腫瘍増殖に必須の分子として機能していること、またその機能発現にSTIM1のCADドメインが必要であることが明らかになった。このことは、STIM1が扁平上皮がん細胞増殖抑制のための新たな標的分子になる可能性を示唆している。以上の結果は、日本薬理学会年会および日本癌学会学術総会で発表すると共に原著論文(Yoshida J et al, 2012)として報告した。
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