研究課題/領域番号 |
23590313
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
高井 真司 大阪医科大学, 医学部, 准教授 (80288703)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | メタボリックシンドローム / キマーゼ / 阻害薬 / アンジオテンシンII / 血管障害 / 心臓障害 / 腎臓障害 / 動脈硬化 |
研究概要 |
「研究の目的」は、高脂肪食負荷で高脂血症を起こすハムスターを用いて、高脂血症、高血圧、糖尿病を合併した際に見られる血管機能障害および心機能障害とキマーゼとの関連性を解析し、そして、合併症に対するキマーゼ阻害薬の効果を解析することで、メタボリックシンドロームの合併症発症および進展におけるキマーゼの病態生理学的役割を解明することであった。 「今年度の実施計画」は、高脂肪食負荷で高脂血症を起こしたハムスターにストレプトゾトシンを腹腔内投与して糖尿病を合併したモデルの継時的解析を行うことと高脂血症を起こしたハムスターの左腎動脈を銀製のクリップにて狭窄して腎性高血圧を合併したモデルの継時的解析を行うことであった。 「実施したこと」は、ハムスターに高脂肪食負荷を開始した1か月後より、明らかな高脂血症(総コレステロールおよびLDLコレステロールの有意な増加)が確認された。高脂血症モデルは、高脂肪食負荷後1および3カ月の時点でも高脂血症の状態が続いていた。しかし、ストレプトゾトシン3カ月後においても動脈硬化形成は軽微な状態で、血管組織のキマーゼ活性の変化はなかった。次に、高脂血症モデル作製後1か月の時点で、ストレプトゾトシンの投与を行った。ストレプトゾトシン投与後3日目で血糖値の有意な上昇が確認できた。また、その血糖値の上昇は、投与後2カ月においても確認できた。血管の内皮機能は、ストレプトゾトシン投与後1か月の時点で減弱しており、キマーゼ活性は、有意に増加していた。一方、心機能は、ストレプトゾトシン後2カ月においても変化がなく、心臓のキマーゼ活性にも変化を認めなかった。高血圧モデルとして、左腎動脈にクリップで狭窄させ、腎性高血圧モデルを作製した。2週後より2カ月後まで血圧上昇と血中レニン活性の増加が確認できた。一方、この時期にキマーゼ活性の上昇は、2か月後においても認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目的は、メタボリックシンドロームのモデル動物の作製および解析であり、高脂血症状態での糖尿病モデルの確立および高血圧モデルの確立であった。高脂肪食負荷により高脂血症モデルが作製できることが確認できた。その一方で、2カ月の期間では高脂血症のみでは血管壁の動脈硬化は、確認できず、血管組織中のキマーゼ活性の上昇はなかった。次に、高脂血症モデル作製後にストレプトゾトシンを投与した。投与後1週で、血糖値の有意な上昇が確認できた。しかし、ストレプトゾトシン投与後1週間以内で、約半数の動物が死亡した。残存したハムスターのうち、その約半数が2カ月後まで生存し、生存したハムスターでは、血糖値が有意に上昇した状態が続いた。本モデルでは、高脂血症単独モデルとは異なり、糖尿病合併後1か月の時点で血管組織中のキマーゼ活性の上昇を認め、有意な血管内皮機能の減弱も確認できた。一方、心機能に関しては、ストレプトゾトシン投与2カ月後までの期間では、有意性のある変化を認めず、心臓組織を用いた線維化面積の評価では、正常との間に有意な差を認めず、腎臓においても顕著な組織変化を認めなかった。目的である高脂血症と糖尿病を合併するモデルは本法にて確立され、そして、血管機能に対するキマーゼ阻害薬の評価は可能と考えられた。死亡率が高いことから、死亡率に対する評価も可能と思われる。高脂血症と高血圧モデルとの合併症モデルに関しては、高脂血症を起こしたのち、腎性高血圧を作製し、約半数は血中レニンおよび血圧上昇を確認できたが、残りの半数は確認できなかった。血中レニン活性の上昇と血圧上昇を認めたモデルは、2カ月まで血管および心臓での著名な変化はなく、臓器障害モデルとしては、更なる長期間の解析が必要であると考えられた。 今年度の目的に対する達成度は、約80%で、最終目的に対する現在までの達成度は、約30%である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにメタボリックシンドロームのモデルとして、高脂血症モデルを作製したのちに糖尿病を合併したモデルを作製、もしくは、高脂血症モデルを作製したのちに高血圧を合併したモデルを作製し、そして、キマーゼとの関連性を解析した。高脂血症と糖尿病との合併に関しては、キマーゼ阻害薬を評価するのにある程度適したモデルが確立できたことより、本モデルを用いた実験を遂行したいと考える。一方、高脂血症モデルに高血圧を合併したモデルにおいては、キマーゼとの関連性を評価するには半年を超える長期での実験が必要なことより、他の方法を検討した方が良いと考えられた。 近年、メタボリックシンドロームを発症する動物が、次々と開発されている。それらの動物やメタボリックシンドロームの合併症を引き起こすモデルを解析することも併せて行って行きたいと考えている。具体的には、肥満を伴う高脂血症、糖尿病モデルで、肝臓では非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を起こしてくるモデルを用いた血管、心臓、腎臓のキマーゼとの関連性を解析する。また、2腎性1クリップ型の高血圧モデルは、腎動脈狭窄による二次性高血圧モデルなので、自然発症高血圧モデルでの高血圧とキマーゼとの関連を解析し、さらに、肥満を伴う自然発症高血圧モデルを用いてキマーゼとの関連性を解析し、キマーゼ阻害薬の評価を行うのに適したモデルであるかを明らかにしたいと考えている。 以前にメタボリックシンドロームの合併症モデルとして、NASHモデルに対するキマーゼ阻害薬の予防効果を検討し、キマーゼ阻害薬がNASHの発症予防に有効であることを報告したが、既にNASHを形成したモデルに対するキマーゼ阻害薬の効果を検討し、メタボリックシンドロームによる合併症の一つであるNASHに対するキマーゼ阻害薬の治療効果を明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
高脂血症を起こしたハムスターにストレプトゾトシンを投与して作製する高脂血症、糖尿病合併症モデルに対するキマーゼ阻害薬の効果を評価する。評価項目として、血糖値、血中コレステロール、血管内皮機能および動脈硬化に対する影響を解析する。これらの作製にハムスターを50匹(15万円)必要とし、ストレプトゾトシンやキマーゼ阻害薬の合成費用、そして、機能解析、組織解析、生化学的解析30万円を必要とする。 高血圧モデルとして、自然発症高血圧ラットを購入し、血圧、心血管の機能解析、組織解析、生化学的解析を継時的に行う予定である。また、肥満、高脂血症、糖尿病を併発する自然発症高血圧ラットを購入し、それらも同様に解析を行う。これらの動物購入費として、自然発症高血圧ラット20匹(15万円)、肥満、高脂血症、糖尿病を併発する自然発症高血圧ラット20匹(30万円)を必要とする。また、これらの解析費用として、20万円を必要とする。これらの動物にキマーゼ阻害薬を投与した解析も可能であれば行いたいと考えている。 その他のモデルとして、ハムスターにメチオニン-コリン欠乏食を与えて作製するNASHモデルを作製し、NASH発症後(試験開始後12週)の時点からキマーゼ阻害薬の投与を開始し、NASHの病態進行に対する影響を解析する。具体的には、試験開始12週で認められる脂肪肝、線維化に対する影響を組織学的解析を中心に行いたい。本実験費用に約20万円を必要とする。 これらの実験結果を本年度は、学会および科学雑誌にて公表して行きたいと考えており、それらに対する費用に使用する予定である。
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