研究課題/領域番号 |
23590322
|
研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
諫田 泰成 国立医薬品食品衛生研究所, 薬理部, 室長 (70510387)
|
研究分担者 |
石田 誠一 国立医薬品食品衛生研究所, 薬理部, 室長 (10270505)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 乳癌 / 癌幹細胞 / 活性酸素 |
研究概要 |
近年、乳癌をはじめとした種々の癌において、増殖能が低く薬剤に対して抵抗性を示す癌幹細胞の存在が示唆され、癌幹細胞によって癌の再発・転移がおこると考えられる。しかながら、癌幹細胞を標的とした治療法は未だ実現していない。そこで我々は乳癌幹細胞のモデル細胞を用いて、新たな薬剤の標的となる分子の探索を行った。特に、乳癌組織において一酸化窒素(NO)の合成酵素の発現が亢進していることが報告されていることから、本研究ではNOシグナルに着目して乳癌幹細胞の増殖との関連を検討した。まず、乳癌幹細胞は、ヒトMCF-7乳癌細胞株からアルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase; ALDH)活性を指標としてフローサイトメトリーにより単離し、その特性を解析した。ALDH陽性細胞は親細胞と比較して、Oct-4, Nanog, c-Mycなどの未分化マーカーが亢進していること、5-フルオロウラシル、ドキソルビシンなどの抗癌剤に対して耐性能を獲得していることを明らかにした。さらに、ALDH陽性細胞をヌードマウスの皮下に移植したところ、腫瘍形成能も親細胞と比較して亢進していた。これらの結果から、ALDH陽性細胞は癌幹細胞の性質を有していることが示唆された。次に、乳癌幹細胞に対するNOシグナルの影響について検討を行った。NOを発生させる化合物SNAPの処理により、乳癌幹細胞の増殖が誘導された。また、SNAPによるNO産生はグリース法により確認した。従って、乳癌幹細胞の増殖にNOシグナルが関与していることが示唆された。以上の結果から、乳癌幹細胞細胞の新たな増殖制御機構としてNOシグナルが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、乳癌幹細胞の解析方法として、ALDH活性を指標としたフローサイトメトリー法を確立した。さらに、その実験系を用いて、薬理学的な手法によりNOシグナルが乳癌幹細胞の増殖に関与することを明らかにしている。これらの結果から、NOシグナルが癌幹細胞を標的とした創薬につながる可能性が考えられる。さらにNOシグナルの関与を明らかにするため、臨床検体に関しても検討を行う予定である。現在米国より取り寄せているところであるが、予想以上に時間がかかってしまい、研究費も繰り越しせざるを得なくなった。入手次第、検討する予定である。以上の結果から、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
NOの下流シグナルとして2つのシグナル経路が知られている。一つは、NO→cGMP→NO感受性シクラーゼ(sGC)→プロテインキナーゼG(PKG)を介する経路である。もう一つは、タンパク質のS-ニトロシル化を介する経路である。そこで2年目は、乳癌幹細胞の増殖にはどちらの経路をメインに利用しているのかを明らかにする。具体的な方法としては、まずcGMPの活性化剤や阻害剤を用いてcGMPの影響を検討する予定である。cGMPが関与する場合には、さらにその下流としてsGC、PKGの検討を行う。一方、cGMPが関与しない場合には、S-ニトロシル化修飾を受けている蛋白質の網羅解析を行う予定である。また、初年度はモデルとして乳癌細胞株由来の癌幹細胞を用いたが、今後は臨床検体もあわせて検討していく予定であり、現在米国より取り寄せているところである。
|
次年度の研究費の使用計画 |
必要な研究機器はある程度揃っていることから、研究費は主に研究試薬に充てる予定である。特に、患者由来の乳癌細胞あるいは乳癌幹細胞の購入に使用する予定で、すでに所内倫理委員会において承認を得ている。現在輸入手配中であるが、アメリカにおける手続きに相当な時間がかかっている。また本研究で得られた知見を国内外の学会などで積極的に発表するため、出張旅費にも使用する予定である。
|