研究課題/領域番号 |
23590323
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
橋本 あり 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60390803)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 浸潤 / 転移 / Arf6 / 乳癌 / ArfGEF |
研究概要 |
本研究は、前癌段階あるいは初期段階の乳癌に誘導される浸潤・転移形質獲得及び、微小転移形成過程におけるGEP100-Arf6-AMAP1経路の活性化・不活性化の分子機序を明らかにすることを目的とし、乳癌の浸潤・転移形質獲得に重要なTGFβ1刺激による解析を行った。EMT誘導可能な乳腺上皮細胞NMuMGをTGFβ1で刺激するとArf6が活性化され、Arf6の発現抑制はTGFβ1刺激による形態変化を抑制する知見を得た。乳癌細胞MDA-MB-231細胞においても、TGFβ1刺激によりArf6が活性化され、また、GEP100、Arf6、AMAP1の発現抑制は浸潤能が抑制されることが分かった。さらに興味深いことに、TGFβ1刺激依存的Arf6活性化の経時的変化に相関して、HGFレセプター/c-Metが活性化される知見を得た。その分子機序の解析から、GEP100はアダプター分子Gab1と結合し、間接的にc-Metに相互作用する新たな作用機序を見出した。Gab1の発現抑制の解析から、Gab1もTGFβ1刺激依存的EMT進行に関与していることが分かった。 乳腺上皮細胞HMECを不死化したHMLE細胞は、TGFβ1によるEMT誘導により、浸潤形質及び幹細胞様形質が誘導される。前癌段階の乳癌におけるEMT進行に焦点をあてるために、HMLE細胞を用いて解析を行った結果、TGFβ1刺激によるEMT進行においてArf6が活性化される結果を得た。さらに、乳癌幹細胞マーカーであるCD44+/CD24-の発現を示すMDA-MB-231などの高浸潤性乳癌細胞群において、Arf6やAMAP1の蛋白質発現量が亢進している知見を得た。これらの結果は、EMT様の変化によって誘導される浸潤形質及び癌幹細胞様形質の誘導にGEP100-Arf6-AMAP1シグナルが関与していることを示唆しているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究結果は順次出ているが、分子機序の解析に関して遅れがある。それは、予想とは異なる分子機序が考えられることに起因する。現在までに、乳腺上皮及び乳癌細胞を用いたTGFβ1刺激依存的EMT進行において、GEP100-Arf6-AMAP1シグナルの関与及びその活性化機構の解析から、いくつかの新しい知見を得た。TGFβ1刺激依存的活性化の分子機序の解析から、TGFβ1刺激によりc-Metの活性化を介してGEP100-Arf6-AMAP1シグナルが活性化されることが分かったが、c-Met活性化の分子機序に関しては、予想と異なるメカニズムが考えられるため、さらなる解析が必要である。 前癌段階の乳癌におけるEMT進行の分子機構に焦点を当てるために、ヒト乳腺上皮細胞HMECを不死化したHMLE細胞を用いた解析から、GEP100-Arf6-AMAP1シグナルがEMT様の変化によって誘導される癌幹細胞様形質の誘導に関与する結果を得ている。また、幹細胞マーカーCD44+/CD24-の発現を示す高浸潤性乳癌細胞群において、Arf6やAMAP1の蛋白質発現量が亢進している興味深い結果が得られた。しかしながら、何故発現が亢進しているのか、また、どのようにして癌幹細胞様形質の誘導に関与しているのか、それらの分子機序に関しては、今後の展開が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題として、TGFβ1刺激依存的EMTを介した浸潤能及び幹細胞様形質の誘導にGEP100-Arf6-AMAP1シグナルがどのように関連しているのか、その分子機序を解析することが重要である。その解析の糸口として、TGFβ1刺激によりどのような遺伝子発現の変化が見られるのか、microRNAの発現も含めた網羅的解析を行うことにより、より詳細な分子機序の解明を行う。 さらに、個体レベルの解析を行う必要がある。そこで、乳癌モデルマウスを用い、非浸潤性乳管癌の段階以前から経時的に乳腺組織でのGEP100-Arf6-AMAP1シグナル因子群、EMTマーカー、c-Metの発現を解析し、それらの発現パターンなどからGEP100-Arf6-AMAP1シグナルが浸潤能獲得にどのように関与しているか検討を行う。乳癌モデルマウスは、初期段階から既に骨髄などへの転移が起こっていることから、骨髄への微小転移が生じる前にGEP100-Arf6-AMAP1シグナルを阻害した際の骨髄への微小転移への影響を解析し、初期段階の乳癌におけるEMT進行とGEP100-Arf6-AMAP1シグナルとの関連について検討を行う。また、幹細胞誘導との関連に関して、乳腺組織の再構築系の解析を行う。乳腺組織から分離した細胞群においてGEP100-Arf6-AMAP1シグナルの阻害、あるいは発現抑制し、それらを乳腺除去したマウスに移植し、乳腺組織の再構築の割合を解析することにより、幹細胞様形質誘導との関連について検討を行う。 臨床標本を用いた妥当性の検討も必要である。乳癌患者の再発と非再発の病理標本を用い、GEP100-Arf6-AMAP1シグナル因子群及びc-Metの発現解析を行い、どのようなパラメーターが悪性度に関与しているか検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の目的である前癌段階あるいは初期段階の乳癌に誘導される浸潤・転移形質誘導におけるGEP100-Arf6-AMAP1経路の活性化に関し、TGFβ1刺激依存的EMTを介した浸潤能及び幹細胞様形質の誘導にGEP100-Arf6-AMAP1シグナルの関与に関して、さらなる分子機序の解析が必要である。 平成23年度において、必要な物品費として、細胞培養試薬、酵素・抗体類及びキット類に使用したが、平成24年度においても、予定額以上に物品費が必要であると考えられたため、平成23年度使用予定の研究費の一部を平成24年度に物品費として、細胞培養試薬、酵素・抗体類及びキット類に使用予定である。また、平成24年度以降、当初の予定通り動物実験を行う。次年度において、分子機序の解析を行うにあたり、物品費として、細胞培養試薬、酵素・抗体類及びキット類に平成23年度未使用分の約12万8千円と約80万を使用する予定である。さらに、動物個体を用いた解析を行うにあたり、マウス費用も物品費として約10万使用する。また、本研究課題に関連する情報収集及び、研究成果の発表のための国内外の学会出席や、実験手法の情報交換のための出張費として旅費に約30万使用する予定である。学会誌投稿料としてその他の費用に約10万使用予定である。 翌年度以降、さらなる詳細な分子機序の解析並びに不活性化に関する分子機序の解析を行うにあたり、物品費として、細胞培養試薬、酵素・抗体類及びキット類約80万使用する予定である。また、動物個体を用いた実験は、時間がかかることが予想され、翌年度以降も継続して行うために、マウス費用を物品費として約10万使用する。また、本研究課題に関連する研究成果の発表のための国内外の学会出席の出張費として旅費に約20万使用する予定である。学会誌投稿料としてその他の費用に約10万使用予定である。
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