研究課題/領域番号 |
23590323
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
橋本 あり 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60390803)
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キーワード | 浸潤 / 転移 / Arf6 / 乳癌 / GEP100 / AMAP1 / p53 |
研究概要 |
前癌段階あるいは初期段階の乳癌に誘導される浸潤・転移形質獲得及び、微小転移形成過程におけるGEP100-Arf6-AMAP1経路の活性化・不活性化の分子機序を明らかにするために、乳癌の浸潤・転移形質獲得に重要なTGFβ1、EGF及びHGFなどのreceptor tyrosine kinases (RTKs)からの刺激による活性化分子機序の解析を行った。これまでに、EMT誘導可能な乳腺上皮細胞NMuMG及び乳癌細胞MDA-MB-231においてTGFβ1、EGF及びHGF刺激によりGEP100-Arf6-AMAP1経路が活性化されることを明らかにしてきた。興味深いことに、その活性化にgain-of-function型のp53変異による特定の細胞内代謝経路の変化が関与していることを見いだした。また、TGFβ1刺激によって発現が上昇するEPB41L5はAMAP1と結合し、浸潤仮足形成に関与している知見を得た。さらに、gain-of-function型のp53変異とGEP100-Arf6-AMAP1経路の活性化との関連を解析した結果、gain-of-function型のp53変異の発現がAMAP1やEPB41L5のmRNA及び蛋白質の発現上昇に関与していること、それらの発現上昇に特定のmiRNAが関与していることが分かった。 ヒト乳癌の臨床標本の免疫染色解析から、GEP100-Arf6-AMAP1シグナル因子群の発現は放射線治療後の再発と相関すること、また、乳癌モデルマウスMMTV-PyMTの肺の転移部において、GEP100、AMAP1の発現が高くなっていることがわかった。これらの結果から、GEP100-Arf6-AMAP1経路はgain-of-function型のp53変異と連関して、乳癌の浸潤・転移形質及び微小転移形成過程に関与していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前癌段階あるいは初期段階の乳癌に誘導される浸潤・転移形質獲得及び、微小転移形成過程におけるGEP100-Arf6-AMAP1経路の活性化・不活性化の分子機序として、gain-of-function型のp53変異との関連及び特定の細胞内代謝経路の変化が関与していることを新たに見いだした。さらに、gain-of-function型のp53変異がAMAP1及びmesenchymal proteinであるEPB41L5のmRNA及び蛋白質発現の上昇に関与している知見を得ている。現在、mRNA及び蛋白質発現制御に関わるmiRNAに関して、解析を進めている。このように、GEP100-Arf6-AMAP1経路の活性化の分子機序の解析は順次結果が出てきている。しかしながら、GEP100-Arf6-AMAP1シグナルの不活性化とMET誘導との関連に関しては、遅れがある。活性化機序を明らかにした後、不活性化とMET誘導との関連について解析を行う予定である。また、ヒト乳癌の臨床標本の免疫染色解析も行い、GEP100-Arf6-AMAP1シグナル因子群の発現と放射線治療後の再発と相関することを見いだした。病理学的解析は研究計画の予定通り進めている。 乳癌マウスモデルを用いた浸潤/転移活性とGEP100-Arf6-AMAP1シグナルとの関連に関して、順次進めてはいるが解析に関して遅れがある。原因として、十分な匹数が揃っていないことが起因する。匹数を増やして、解析を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題として、初期段階の乳癌に誘導される浸潤・転移形質獲得及び、微小転移形成過程におけるGEP100-Arf6-AMAP1経路の活性化機序に関して、gain-of-function型のp53変異との関連及び特定の細胞内代謝経路の変化との関連に関して、さらに詳細な分子機序の解析が必要である。細胞内代謝経路のどの分子がGEP100-Arf6-AMAP1経路の活性化に関与しているのか、そのことがレセプターとGEP100との相互作用、Arf6の膜局在に必要な脂質修飾、他因子との相互作用などに影響しているか検討を行う予定である。 臨床標本を用いた妥当性の検討に関しても、さらに必要なパラメーター(TGF, Arf6など)に関して解析を進めていく。また、個体レベルの解析も必要である。乳癌モデルマウスを用い、非浸潤性乳管癌の段階以前から経時的に乳腺組織でのGEP100-Arf6-AMAP1シグナル因子群、EMTマーカー、c-Metの発現を解析し、それらの発現パターンなどからGEP100-Arf6-AMAP1シグナルが浸潤能獲得にどのように関与しているか検討を行う。また、GEP100遺伝子条件付き欠損マウスを用いて、乳腺組織で特異的にCre遺伝子を発現するWap (whey acidic protein)-Creマウスとの掛け合わせを行い、乳腺特異的にGEP100遺伝子を欠損したマウスと乳癌モデルマウスとを掛け合わせ、初期転移に与える影響を検討していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の目的である前癌段階あるいは初期段階の乳癌に誘導される浸潤・転移形質誘導におけるGEP100-Arf6-AMAP1経路の活性化に関し、TGFβ1、EGF及びHGFなどのreceptor tyrosine kinases (RTKs)からの刺激依存的EMTを介した浸潤能の誘導におけるGEP100-Arf6-AMAP1シグナル経路の関与に関して、さらなる分子機序の解析を行う予定である。 平成24年度において、物品費として新たな抗体等の試薬の購入を予定していたが、既存の試薬を用いた解析が必要であったため、計画を変更し、次年度に購入することにした。未使用額はその経費に充てる予定である。 平成25年度において、分子機序の解析を行うために必要な物品費として、細胞培養試薬、酵素・抗体類及びキット類に約100万を使用する予定である。さらに、動物個体を用いた解析を行うにあたり、マウス費用も物品費として約10万使用する。また、本研究課題に関連する情報収集及び、研究成果の発表のための国内外の学会出席や、実験手法の情報交換のための出張費として旅費に約20万使用する予定である。学会誌投稿料としてその他の費用に約10万使用予定である。
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