研究概要 |
自然免疫系のストレスセンサー分子であるNLRP3は多様な細胞ストレスに応じて誘導される炎症性サイトカイン分泌に中心的な役割を担っている。本研の主眼点はNLRP3によるNF-κB活性化に着目してきた申請者のこれまでの研究成果を展開し、病原体感染を伴わない各種炎症誘導過程においてNLRP3がNF-κBの活性化、各種遺伝子発現を誘導していることを証明することにある。昨年度までにNLRP3が非感染性ストレスを感知したヒトマクロファージ細胞株の炎症誘導過程においてNF-κBの活性化を誘導し、TNF-α, IL-1βの発現誘導に寄与している事を明らかにした。更に、このNLRP3による各種遺伝子発現誘導能が非免疫系細胞であるがん細胞の恒常的なIL-1β遺伝子発現に関与していること、NLRP3ノックダウンが、繊維肉腫細胞株HT1080のTGF-β、b-FGF、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP-2, MMP-9, MT1-MMP)発現を減少させることを見いだした。本年度はGEO (Gen Expression Omnibus)検索によりグリオーマにおいてNLRP3 mRNAが高発現していることを見いだし、NLRP3ノックダウンによりグリオーマ細胞株U87MGのTGF-β, MT1-MMPの発現が低下すること、MT1-MMPによるMMP2切断活性が減弱すること、in vitroアッセイにおける浸潤能が低下することなどを見いだした。IL-1β、TGF-β、b-FGFはがんの悪性化と密接に関わる因子である。MMP-2, MMP-9, MT1-MMPは、がんの浸潤および転移において主要な役割を担っている細胞外マトリックス分解酵素である。これらの結果より、NLRP3による各種遺伝子発現誘導が、がんの悪性化過程にも重要な役割を担っていることが示唆された。
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