研究課題
哺乳動物において19種類存在するWntは細胞内の複数のシグナル経路を活性化することにより、多彩な細胞応答を制御する。本研究ではβ-カテニン非依存性経路を活性化するWnt11の精製法を確立し、精製Wnt蛋白質を用いて糖鎖や脂質修飾を質量分析法によって解析することにより、翻訳後修飾によるWnt11の細胞外分泌や機能発現の制御機構を解明することを目的としている。今年度に得られた知見は以下の5点である。1)Blue sepharose、Superdex200、Hydroxyapatite、ConA、Cu chelate columnの5段階のカラムを用いて、抗Wnt11抗体による検出とDvlのリン酸化を指標にWnt11の活性画分を検出し、同一蛋白質にまで精製することに成功した。2)Wnt11は1回膜貫通型受容体Rykと結合し、RykとFz7のクラスリン依存性のエンドサイトーシスを誘導した。3)HeLaS3細胞においてWnt11によるRacの活性化にはRykが必要であった。2)と3)の結果から、Wnt11はRykを介してRacを活性化することが示唆された。4)Wnt11の翻訳後修飾を解析したところ、N40、N90、N300に糖鎖が付加され、S215にはパルミトレイン酸が付加されていた。さらに、N40はcomplex/hybrid型、N90にはhigh mannose型、N300にはhybrid/high mannose型の糖鎖が付加されていた。5)Wnt11の糖鎖修飾の生理的意義を解析したところ、三箇所の糖鎖修飾部位のうち一箇所のAsnをGlnに置換した変異体はWnt11の細胞外分泌が抑制された。4)と5)の結果から、Wnt11の細胞外分泌には三箇所のN結合型糖鎖修飾が必要であることが示唆された。これらの結果はWnt11の生化学的性状や翻訳後修飾の一端を明らかにしたものである。
2: おおむね順調に進展している
これまでにWnt蛋白質は細胞外マトリックスに結合する傾向が強く、生理活性を有するWntとして単離、精製することが困難であったため、Wnt蛋白質の生化学的性状の詳細は明らかにされていなかった。本研究において研究実績の概要で記述したように5段階のカラムを用いて、Wnt11の精製法を確立した。また、精製したWnt蛋白質を用いて質量分析法によるWntの翻訳後修飾を解析する実験系を構築した。今後、これらの精製法や質量分析法を踏襲することにより、他のWnt蛋白質の精製法を確立し、それらの翻訳後修飾を解析できると考えている。
これまでに、Wnt3aやWnt5aの翻訳後修飾を質量分析法により解析した結果、Wnt3aには2箇所のAsnにhigh mannose型、Wnt5aには2箇所のAsnにhigh mannose型と1箇所のAsnにはhybrid型の糖鎖が付加されていることを見出している。そこで、Wnt蛋白質の糖鎖修飾の部位や種類の違いによってWntの細胞外分泌や受容体との結合に違いがあるかを系統的に解析し、糖鎖修飾や脂質修飾によるWntの機能発現制御を明らかにする。また、Wnt3aやWnt5a、Wnt11の精製法を踏襲して、Wnt4やWnt7aの精製法を確立する。これまでにWnt4やWnt7aを恒常的に発現させたL細胞の培養上清から精製を試みたが、生理活性有するそれらのWnt蛋白質を大量に得られていない。そこで、細胞種や発現ベクターも含めて幾種類かWnt発現系を樹立して、最適条件を見出し、Wnt4やWnt7aの大量精製法を確立する。
今年度の研究費は主に消耗品費として約100万円を使用する。1)哺乳動物細胞を培養する際に使用する大量の牛胎児血清やメディウム、培養用器具。2)蛋白質の発現やノックダウンをする際に使用する高額の分子生物学用試薬やdouble-stranded RNA、トランスフェクション用試薬。3)Wnt蛋白質の機能解析をするために使用するprotein A sepharose(免疫沈降用)、ならびにWnt蛋白質を精製する際に必要な各種担体。また、研究打ち合わせと研究発表のために旅費として約10万円使用する。本研究を遂行するために必要な印刷費、通信費や研究成果発表のための学術論文投稿料や論文別刷代として約10万円使用する予定である。
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