研究課題
本研究ではβ-カテニン非依存性経路を活性化し、哺乳動物における生理機能が明らかにされていないWnt11の精製法を確立すると共に、精製Wnt蛋白質を用いて糖鎖や脂質修飾を質量分析法によって解析し、翻訳後修飾によるWntの細胞外分泌や機能発現の制御機構を解明することを目的としている。今年度に得られた知見は以下の5点である。1)Blue sepharose、Superdex200(ゲルろ過)、Hydroxyapatite、ConA sepharose、Cu chelate columnの5段階のカラムを用いて、抗Wnt11抗体による検出とDvlのリン酸化を指標に活性画分を検出しすることにより、Wnt11の培養上清3リットルからWnt11を大量に(約30 μg)精製した。2) Wnt11とWnt3aの翻訳後修飾を質量分析法により解析したところ、Wnt11のS215にはパルミトレイン酸が、N40にはcomplex/hybrid型、N90にはhigh mannose型、N300にはhybrid/high mannose型のN結合型糖鎖が修飾されていた。一方、Wnt3aのN87 とN298にはhigh mannose型のN結合型糖鎖が修飾されていた。3)極性化MDCK細胞においてWntが頂端部、側底部のいずれに分泌されるかを解析したところ、Wnt11は頂端部、Wnt3aは側底部へ分泌された。4)Wntの細胞外分泌を制御するWntlessはWnt3aと同様に側底部へ輸送され、両者はクラスリンやAP1、AP2によって側底部への輸送が制御された。 5)Wnt11はN末端側の糖鎖修飾が頂端部への輸送に必要であり、ガラクトースを認識するガレクチン3によって頂端部への輸送が制御された。これらの結果は糖鎖修飾の違いによるWnt11とWnt3aの極性分泌の制御機構の一端を明らかにしたものである。
2: おおむね順調に進展している
これまでにWnt蛋白質は細胞外マトリックスに結合する傾向が強く、生理活性を有するWntとして単離、精製することが困難であったため、Wnt蛋白質の生化学的性状や細胞外分泌の分子機構は明らかにされていなかった。本研究においてBlue sepharose、Superdex200(ゲルろ過)、Hydroxyapatite、ConA sepharose、Cu chelate columnの5段階のカラムを用いて、Wnt11の精製法を確立した。また、精製したWnt11やWnt3a蛋白質を用いて質量分析法によるWntの翻訳後修飾を解析する実験系を構築した。さらに、上皮細胞におけるWntの極性分泌について解析して、Wnt11のWnt3aの極性分泌が糖鎖修飾によって制御されていることを明らかにした。今後、これらの精製法や質量分析法を踏襲することにより、他のWnt蛋白質の精製や翻訳後修飾を解析し、それらの生理的意義を解析できると考えている。
これまでにWnt5aとWnt5bの翻訳後修飾を質量分析法により解析した結果、Wnt5aには2箇所のアスパラギンに高マンノース型と1箇所のアスパラギンには混成型の糖鎖が修飾されていることを見出している。そこで、Wnt蛋白質の糖鎖修飾の部位や種類の違いによってWntの細胞外分泌と受容体との結合や細胞外分泌に違いがあるかを系統的に解析し、糖鎖修飾や脂質修飾によるWntの機能発現制御を明らかにする。また、Wnt3aやWnt5a、Wnt11の精製法を踏襲して、Wnt1の精製法を確立し、翻訳後修飾や細胞外分泌の制御機構を解析する。
Wnt蛋白質精製のためのメディウムやプレート、ならびに上皮細胞におけるWntの極性分泌を解析するためのフィルター等、消耗品を購入する。
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http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/molbiobc/