本研究の目的は、横紋筋の収縮装置「サルコメア」の構築・維持機構を、アクチン重合制御の観点から明らかにすることである。具体的には、アクチンとミオシン両線維が規則正しく整列したサルコメア構造の形成に必須であるアクチン重合制御因子Fhod3のマウス個体における機能を中心に、サルコメアの構築・維持においてアクチン重合制御機構が果たす役割を明らかにすることを目指している。初年度である本年度は、野生型マウスを用いて心筋組織におけるFhod3の発現様式を発生段階別に詳細に検討するとともに、その細胞内の局在様式を検討した。その結果、Fhod3は胎生期から成体期に至るまで心臓に強く発現し、心筋サルコメア内に周期的に局在することが明らかとなった。さらに、心臓特異的に発現するα型ミオシン重鎖(α-MHC)のプロモーター支配下にFhod3を発現するトランスジェニックマウスを作出し、過剰発現したFhod3の局在を観察したところ、外因性Fhod3も内因性Fhod3と同様の局在パターンを示した。このサルコメア内におけるFhod3の局在を、各種マーカー蛋白質との比較等により詳細に観察した結果、Fhod3はアクチン線維の端ではなく、アクチン線維とミオシン線維がオーバーラップする領域に局在することが判明した。この結果は、アクチン線維のプラス端に相互作用するというこれまでのin vitro解析の結果(Taniguchi et al. JBC 2009)から予測される局在部位とは異なっており、当初予想された「Fhod3が単純な重合促進因子として作用する」というメカニズムよりも複雑な重合制御機構が存在する可能性を示唆していると考えられた。
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