本研究の目的は、横紋筋の収縮装置「サルコメア」の構築・維持機構を、アクチン重合制御の観点から明らかにすることである。具体的には、アクチンとミオシン両線維が規則正しく整列したサルコメア構造の形成に必須であることを申請者が明らかにしたアクチン重合制御因子Fhod3の欠損マウスの表現型を手がかりに、サルコメアの構築とその恒常性維持において、アクチン重合制御機構が果たす役割とその制御シグナルを明らかにすることを目指している。昨年度までにFhod3欠損マウスを作出し、ホモ欠損マウスは胎生8.5日以降の筋原線維の成熟を伴う心筋発達が損なわれる結果、胎生11.5日までに心不全兆候を伴って死亡することを明らかにした。さらに、アクチンと結合出来ない変異型Fhod3のトランスジェニックマウスは、未熟な筋原線維を含む心筋症様の変化を示して新生仔期に死亡した。これらの結果より、アクチン重合制御因子Fhod3によるアクチン細胞骨格制御が、筋原線維の形成を通じて心臓形成に必須の役割を果たすことを明らかにした。次に、Fhod3変異によるヒトの心筋異常の可能性を考え、既知の原因遺伝子に変異が見いだされない日本人家族性拡張型心筋症患者を対象としてFHOD3遺伝子の変異を検索した結果、進化上よく保存されたアミノ酸のミスセンス変異を1名の患者に検出した。当該変異により、アクチン動態依存性に活性化される血清応答因子SRFの転写活性が減少したことから、Fhod3がアクチン動態依存的にヒトにおける拡張型心筋症の発症に関わる可能性が示唆された。
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