研究課題/領域番号 |
23590338
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山崎 創 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70315084)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 発現制御 / 転写 / 炎症 |
研究概要 |
微生物感染に伴う多くの宿主防御遺伝子の発現は、転写因子NF-κBに依存している。研究代表者が以前同定した核タンパク質IκB-ζは、一群のNF-κB標的遺伝子の発現に不可欠である。野生型マウスから調製したマクロファージをリポ多糖 (LPS; lipopolysaccharide)などの微生物成分で刺激すると、標的エンハンサーにNF-κBのp65サブユニットやクロマチンリモデリング因子が結合するが、IκB-ζの欠損細胞ではこれらの結合が認められないので、IκB-ζは標的エンハンサーのアクセシビリティを調節していると考えられる。 抗菌タンパク質Lipocalin-2をコードするLcn2の発現は、IκB-ζ依存的にLPSによって誘導される。研究代表者は昨年度までに、LPS刺激によるLcn2の発現が、合成グルココルチコイドの一種デキサメサゾン(Dex)によって強く増強されることを見出していた。本年度は主にクロマチン免疫沈降解析により、NF-κBやグルココルチコイド受容体(GR; glucocorticoid receptor)のエンハンサー結合を検討した。Dexの単独刺激時には、GRの核移行は認められたが、Lcn2エンハンサーへのGRの結合やLcn2の発現は観察されなかった。ところが、LPSとDexの両者で刺激すると、GRがIκB-ζ依存的にLcn2エンハンサーに結合するようになることが判明した。したがって、IκB-ζを介したエンハンサーアクセシビリティの増大は、Lcn2の相乗的な遺伝子発現に重要な役割を果たすことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、IκB-ζが標的エンハンサーへの転写調節因子の結合を制御することを明らかにしてきたが、今回、LPSとDexとの同時刺激によって相乗的に発現が増強される遺伝子に着目したことにより、エンハンサーアクセシビリティのレベルでシグナル伝達のクロストークが起きる新しい例を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
IκB-ζやその関連分子のノックアウトマウス由来細胞を用いて、クロマチン免疫沈降解析をおこなうことにより、着目している個々の因子が関わる転写活性化のステップを明らかにする。また、IκB-ζの結合により転写因子のエンハンサー結合能が変化する可能性を探るべく、in vitroのDNA結合実験などを実施する。さらに、IκB-ζとクロマチンリモデリング因子との相互作用についても、免疫共沈降法やpull-downによって検討し、直接相互作用が認められた場合には、その相互作用に関わるアミノ酸残基に変異を導入した分子の発現の効果を評価する。研究代表者はすでにクロマチンの再構成に必要なATPの加水分解活性を欠くリモデリング因子の変異体を取得しているので、この変異体を発現する細胞における転写調節因子のプロモーター結合と遺伝子発現を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
複数のノックアウトマウス系統の維持に相当額の費用を充てる。また、マウスの組織由来の細胞を用いてクロマチン免疫沈降解析や内在性タンパク質の検出を試みるので、多量の細胞培養器具と試薬が必要である。次年度も全研究費の90%を超える品目はない。
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