研究概要 |
転写因子NF-κBは、炎症性サイトカインや抗菌タンパク質などの宿主防御因子の発現に必須な役割を果たしている。炎症性サイトカインの発現は、糖質コルチコイドの存在下で抑制されるが、これは、NF-κBの転写活性が核内受容体であるグルココルチコイド受容体を介して阻害されるためであることが知られている。一方、抗菌タンパク質の発現に対する糖質コルチコイドの効果についてはこれまで不明であった。研究代表者は最近、リポ多糖などの微生物感染刺激によって誘導される抗菌タンパク質の発現が、合成糖質コルチコイドであるデキサメサゾン(Dexamethasone, Dex)の存在下で増強されることを見出した。このことは、炎症応答の進行に伴って放出される糖質コルチコイドが、過剰な炎症反応を抑制しつつ、抗菌タンパク質の産生を増大させることにより宿主の感染防御能を維持する作用を持つ可能性を示唆している。また、本研究で着目している抗菌タンパク質遺伝子は、いずれも研究代表者が以前に発見した核内因子「IκB-ζ」に依存して発現する遺伝子であった。 本年度は、対象としている抗菌タンパク質遺伝子について、転写開始点を含む5'-上流領域のDNA断片を用いて転写活性化に関わるシスエレメントの解析をおこなった。今回新たに取得したDNA断片をルシフェラーゼ遺伝子の上流に融合したプラスミドを細胞に導入すると、リポ多糖刺激による強いレポーター活性の上昇およびDexによる増強効果が認められた。一連の欠失変異体および点変異体を解析し、Dexによる転写増強に必要なシスエレメントを同定した結果、グルココルチコイド応答エレメント非依存的に転写増強される機構の存在が明らかになった。
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