研究課題/領域番号 |
23590347
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
富田 毅 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (20302242)
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キーワード | 血清アミロイド / S100A8 / TLR4 |
研究概要 |
本研究はがん転移反応におけるがん細胞と転移土壌(肺)間における相互作用を、転移土壌側から解析したものである。転移先の臓器では転移反応を成立させるための有利な条件作りが、腫瘍原発巣由来の分子シグナルによって誘導されるという「転移前状態」説に基づいた実験を行った。細胞間のシグナル分子としてはS100A8、S100A9、およびSAA3に、転移先臓器側の受容体分子としては、TLR4、MD2、および酸化LDL受容体に注目した。TLR4MD2は大腸菌などのグラム陰性菌の細胞壁成分であるエンドトキシンの受容体であることから、調製試料がエンドトキシンを含まない合成ペプチドであることや、エンドトキシンの混入の少ない、動物培養細胞からのものであることが要求されている。そこでS100A8やSAA3を合成ペプチドによって再構成したものを準備し、TLR4MD2や酸化LDL受容体との結合を改めて評価した。その結果合成ペプチドによるSAA3の生理機能は培養細胞から精製したものと同等であることが確認された。また、全長のSAA3だけでなく、その部分配列や新たに見出されたバリアントの解析も行い、SAA3のTLR4MD2への結合は部分配列でも有効であることと、ある種のバリアントSAA3は酸化LDL受容体にも結合することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S100A8-S100A9の複合体生成実験において、この複合体がS100A13タンパク質と結合していることが示唆されるデータが得られたので、S100A8-S100A9ヘテロダイマーの細胞放出機構とS100A13との関係を明らかにすることを試みた。S100A8-S100A9ヘテロダイマーはシグナルペプチドを持たないため、通常の分泌機構とは異なった分子機構で細胞外へ放出されることが考えられている。また、S100A13は同様のシグナルペプチドを持たない分泌タンパク質であるFGF1の分泌を制御していることが明らかにされていることから、S100A13は注目に値する分子であると考えられる。マウスおよびヒトS100A13のshRNAを作成し、マウスおよびヒト培養細胞にトランスフェクションすることにより、S100A13安定ノックダウン株を作成した。S100A13ノックダウン株では、ヒートショック等の刺激に対して、S100A8-S100A9の培地への放出が増加した。これはFGF1の分泌が、S100A13のノックダウンにより減少するという先行研究の結果とは完全に異なっており興味深い。 一方SAA3とTLR4MD2および酸化LDL受容体との結合試験では、昨年度までの研究では、SAA3はTLR4MD2には結合するが、酸化LDL受容体とは結合しないとの結果が得られていたが、新たにSAA3のバリアントが見出され、SAA3のバリアントは酸化LDL受容体に結合することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
酸化LDL受容体にSAA3バリアントが結合したときにどのような細胞内シグナリングが機能するか調べるつもりである。酸化LDL受容体そのものの存在は広く知られているが、その細胞内シグナリングについてはほとんど研究がなされていない。酸化LDL受容体へのSAA3の結合がERKタンパク質のリン酸化を引き起こすかどうかを、酸化LDL添加の場合と比較してその時間依存性・容量依存性を検討したい。転写レベルでどのような影響を与えているかについても調べることを将来的に考えている。またSAA3の生体内での存在形態についても研究を進める。SAA3を含め、血清アミロイド類は血中に豊富に存在するタンパク質でありながら、その分子構造については全く明らかにされていない。アミノ酸配列情報に基づいた二次構造予測では、血清アミロイドはαへリックスが多い構造とされているが、申請者らが実験室で精製したタンパク質は分光測定の結果明確な二次構造を持たないことが判明している。さらに先行研究によると、血清アミロイドは酸性条件下でヘパリンと結合し、二次構造の変化を伴う立体構造変化を起こすことが示唆されている。このことから、SAA3は2つの異なる立体構造をとることができるが、そのうち一方のみが情報伝達物質をして機能することができるのではないかと仮説を立てるに至った。
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次年度の研究費の使用計画 |
SAA3の構造に対する情報を得るため、合成ペプチドで構成されたSAA3、大腸菌での発現系を利用して精製したSAA3、天然に近い状態であると考えられている、ヒト培養細胞で過剰発現させたものを精製したSAA3の分光測定を行い、それらの構造に関する情報を得る。また、受容体との結合に際して、構造変化が見られるかどうかについても検討するつもりである。培養細胞を用いた実験では、酸化LDL受容体依存的なSAA3シグナリングを解明するための生化学的実験を行う。SAA3バリアントの存在形態を明らかにするための分子生物学的実験を行い、RNAレベルでの構造決定、定量PCRによるコピー数定量などを行う。
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