研究課題/領域番号 |
23590348
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
呉 文文 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 助教 (10434408)
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キーワード | HERC2 / BRCA1 / 複製フォーク / 細胞周期チェックポイント / Claspin / ATRIP |
研究概要 |
HERC2はBRCA1依存的に複製フォークの安定化因子であるClaspinと複合体を形成し、S期の進行を制御する結果が得られたから、BRCA1/HERC2複合体が複製フォーク安定性への影響を検討した。Aphidicolin処理/BrdUラべリングにて停止した複製フォークを可視化し、HERC2は停止した複製フォークと共局在することを確認した上、DNAファイバー伸展技術を用いて、HERC2が複製フォークの進行速度、複製開始点への影響を検討した。HERC2のノックダウンは、単独で複製フォークの進行速度や複製開始点の発火へ影響が少ないが、Claspinのノックダウンによって生じた複製フォークの進行停止および休眠複製開始点の異常発火をレスキューする。HERC2はClaspinとともに複製フォークの進行および安定性を制御することを明らかにした。プロテアソーム阻害剤を添加することでHERC2/Claspin複合体が複製フォーク進行や安定に対する制御への影響は見られないことから、HERC2の蛋白分解活性は複製フォーク複合体の安定性制御に必要がないと考えられた。 複製時、Claspin欠失によってDNAポリメラーゼ複合体がMCMヘリカーゼによりほどかれた一本鎖DNA(ssDNA)にローディングできず、複製フォークの不安定が生じる。HERC2はDNAポリメラーゼ複合体と直接的な分子間の相互作用が認められなくて、HERC2のノックダウンでClaspin欠失によるssDNA異常も改善されないことから、HERC2は複製フォーク安定制御への直接的な関与はないと考えられた。一方、HERC2はClaspin欠失時や、DNA傷害時にATRIPと相互作用し、 ATR による MCM2のリン酸化を促進し、BRCA1を介したATR-Chk1キナーゼカスケード細胞周期チェックポイント機構に機能することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目的としては、BRCA1/HERC2が細胞周期チェックポイントとDNA修復機構における分子機能を明らかにすることである。解析方法としては、BRCA1/HERC2が複製フォークの進行、停止した複製の回復に与える影響を評価し、BRCA1/HERC2が複製フォークにおける配置及び他の複製フォーク構成分子との相互作用を含め、BRCA1/HERC2が複製フォークの進行、回復に果たしている分子機能を解析するとしている。現在までの結果から、HERC2の複製フォークの進行や、停止した複製の回復に与える影響は、Claspinと複合体を形成することによって、Claspinとともに複製フォークの進行停止および休眠複製開始点の異常発火を制御し、DNA損傷修復に貢献することを明らかにした。又、他の分子機構との相互作用によって、複製フォークの進行、回復に果たしている分子機能については、HERC2は直接的ではなく、DNA傷害時にATRIPと相互作用し、ATR による MCM2のリン酸化を促進し、ATR-Chk1キナーゼカスケード細胞周期チェックポイント機構に機能することを示した。以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの結果から、HERC2はその蛋白分解活性が必要なく、BRCA1依存的にClaspinと複合体を形成し、Claspinとともに複製フォークの進行停止および休眠複製開始点の異常発火を制御して、ATRIPとの相互作用で細胞周期チェックポイント機構に機能することが明らかになったが、BRCA1のPathwayにおける役割は依然はっきりしない。今後、BRCA1の役割について重点的に解析を行う予定。具体的には、 1)BRCA1のユビキチンリガーゼ活性の必要性について、BRCA1のユビキチンリガーゼ活性を持たない変異体を用いて、HERC2とClaspinおよびHERC2とATRIPの分子間相互作用を解析する。 2)今まで安定した結果が得られていない、ユビキチンリガーゼ活性を持たない変異体を用いたBRCA1のE3活性が複製フォーク進行に対する影響の解析を行う。実験試料の統一に心をかけながら、安定した結果が得られるように努める。 3) BRCA1のユビキチンリガーゼ活性パートナであるBARD1の役割について解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
細胞培養用試薬やディッシュ類、また、サンプリングに必要なチューブ、チップ、ピッペ トなどの消耗品には約40万円を配分する。 免疫沈降やウェスタンブロット法、または多重蛍光染色に必要な抗体を購入するのに、30万円に試算した。 RNA干渉法に使用するsiRNAや導入用試薬には、20万円を予定する。 細胞周期の確認のために行うフローサイトメトリー(FACS)や、細胞分画に必要な試薬を購入には10万円で試算する。
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