研究課題/領域番号 |
23590351
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
和泉 弘人 産業医科大学, 医学部, 准教授 (50289576)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | mtTFA / 遺伝子発現 / 転写因子 / 抗アポトーシス / ストレス耐性 |
研究概要 |
TFAMは核にコードされた遺伝子で、TFAMから合成されたタンパク質mtTFA (mitochondrial transcription factor A)はミトコンドリアに移行し、種々の遺伝子発現を転写レベルで制御している。ミトコンドリアのATP合成に関わる遺伝子発現にはmtTFAは必須であるが、がん細胞では嫌気的解糖系を優位に利用しているためミトコンドリアでのATP合成の観点からmtTFAの発現が亢進する必然性は低いと考えた。しかしながら、我々は臨床検体を用いた解析から子宮内膜がんにおいてmtTFAの発現が高いほど予後不良になることを見出した(Virchows Arch 2010;456:387-93)。mtTFAの構造的特徴はミトコンドリア移行シグナルとDNAに結合するHMG (high mobility group)ボックスを持つことであり、HMGボックス内に核移行シグナルが存在することからmtTFAは核においても転写因子として機能するのではないかと仮説を立てた。そこで、前立腺がん細胞株を用いて検討した結果、mtTFAが核に存在することを見出し、BIRC5 (Survivin)の発現を直接転写レベルで制御することを論文で報告した。さらに、臨床検体を用いた解析から卵巣がんにおいてmtTFAの核内発現が高いと予後不良であることを見出し、mtTFAがBCL2L1 (Bcl-xL)の発現を直接転写レベルで制御することを論文で報告した。mtTFAが核内へ移行して転写因子として機能すること、mtTFAの標的遺伝子として抗アポトーシス分子として知られているBIRC5 (Survivin)やBCL2L1 (Bcl-xL)が含まれていることから「mtTFAはストレス耐性分子である」ことが示唆され、mtTFAの新たな機能を見出した点は重要であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
mtTFAが核内へ移行して転写因子として機能すること、mtTFAの標的遺伝子として抗アポトーシス分子として知られているBIRC5 (Survivin)やBCL2L1 (Bcl-xL)が含まれていること、臨床検体を用いた解析から卵巣がんではmtTFAの核内発現が高いと予後不良であることを見出した。これらの成果は「mtTFAはストレス耐性分子である」という仮説を部分的に証明できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1) mtTFAと他のHMGボックスタンパク質の比較検討HMGB1は炎症性メディエーターであり、RAGE、TRL-2、TRL-4などのリガンドである。同じHMGボックスをもつmtTFAが炎症や抗がん剤処理などのストレスでどのような量的・質的変化(細胞外分泌を含む)を伴うかを検討し、ストレス応答の意義を明らかにしていく。2) mtTFAの核内会合分子の同定(1)mtTFAはミトコンドリア内でmtTFBと結合して転写機能が活性化される。そこで、mtTFBに相同性のあるDIMT1がmtTFAを結合するか検討する。(2)mtTFAと会合する未知の分子についてはタグ法(Flag融合タンパク質)を用いて同定する。すなわち、Flag-mtTFAに結合するタンパク質をSDS-PAGEゲル電気泳動により単離し、アミノ酸配列からタンパク質を同定する。これらのタンパク質がmtTFAに結合することをin vivoおよびin vitroで確認後、mtTFAと同様に発現局在や細胞内移動、遺伝子発現解析を行う。また、mtTFAとの相互機能解析を推し進め、会合タンパク質の過剰発現や発現抑制で細胞増殖やストレス応答、アポトーシス応答に変化が起こるか検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
Flag-mtTFAの安定発現細胞を作製してDNAマイクロアレイやChip-on-chip、さらに会合分子の同定作業など外部委託する予定で研究費を残しておいたが、作製に時間がかかってしまいこれらの解析が次年度にずれ込んでしまったため未使用金額が発生した。研究費は旅費として100,000円、その他として200,000円、残りを消耗品として使用する予定である。
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