研究課題/領域番号 |
23590351
|
研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
和泉 弘人 産業医科大学, 医学部, 准教授 (50289576)
|
キーワード | mtTFA / 遺伝子発現 / 転写因子 / 抗アポトーシス / ストレス耐性 |
研究概要 |
TFAMは核にコードされた遺伝子で、TFAMから合成されたタンパク質mtTFA (mitochondrial transcription factor A)はミトコンドリアに移行し、種々の遺伝子発現を転写レベルで制御している。ミトコンドリアのATP合成に関わる遺伝子発現にはmtTFAは必須であるが、がん細胞では嫌気的解糖系を優位に利用しているためミトコンドリアでのATP合成の観点からmtTFAの発現が亢進する必然性は低いと考えた。この仮説を裏付けるようにmtTFAは核にも移行し、抗アポトーシス分子として知られているBIRC5 (Survivin)やBCL2L1 (Bcl-xL)の発現を直接転写レベルで制御することを見出し昨年度に報告した。一方、臨床検体を用いた解析から子宮内膜がん、卵巣がんにおいてmtTFAの発現が高いほど予後不良になることも見出し昨年度に報告した。今年度は原発性大腸がんと診断された患者における腫瘍組織内のmtTFAの免疫組織化学的発現と臨床病理学的因子および予後との関連を検討した。105人の原発性大腸がん患者から得られた手術標本をポリクローナル抗mtTFA抗体で免疫組織化学的に染色した。105人の原発性大腸がんの47患者(44.8%)はmtTFAの発現が陽性と判断された。mtTFAの陽性発現はリンパ節転移、遠隔転移とTNM分類での進行と有意に相関した。一方、mtTFAの発現が陰性の患者ではKi-67指数が高くなる傾向を示した。予後調査ではmtTFAの発現が陽性の患者の生存率は陰性の患者より有意に不良であった。mtTFAの発現は原発性大腸がん患者においても腫瘍の進展や予後不良の有用な診断マーカーになること、また治療においてはmtTFA は分子標的になる可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
mtTFAがミトコンドリアだけでなく核内へも移行し、遺伝子発現を転写レベルで制御する新しい機能を見出した。また、mtTFAの標的遺伝子として抗アポトーシス分子として知られているBIRC5 (Survivin)やBCL2L1 (Bcl-xL)が含まれていることを見出した。これまでの成果はmtTFAがアポトーシス耐性に関わる重要な核の転写因子である可能性を示唆している。一方、臨床検体を用いた解析では子宮内膜がん、卵巣がん、原発性大腸がんでmtTFAの発現が高いと予後不良であることを報告した。mtTFAは抗アポトーシス分子であるBIRC5 (Survivin)やBCL2L1 (Bcl-xL)の発現を制御し、mtTFAの発現亢進はがんの予後不良因子であるという成果は「mtTFAはストレス耐性分子である」仮説を部分的に証明できていると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年4月1日に研究室の配置換え(分子生物学から呼吸病態学へ)があり、実験の再開に若干時間を要している。また、実験器具にも制限がありこれまで通りの研究が講座の研究室だけでは行えない状況である。これに対しては、共同利用可能な実験器具を使い、研究に支障が出ないように注力する予定であるが、研究の進行に遅れが出ることは避けられない状況である。そこで、研究を一部変更して進める。 (変更点)mtTFA安定発現細胞を作製して各種ストレス(薬剤や紫外線など)に対する細胞への影響を検討する。安定発現細胞の樹立の実績はあるが、mtTFA安定発現細胞の作製は非常に困難である。問題可決にはTet-Onシステムなど発現誘導型の方法で対処する予定である。 (変更点)以前、腫瘍抑制因子p53がミトコンドリア内でmtTFAと分子会合し、mtTFAの損傷DNA認識能に影響を与えることを報告した。そこで今回は、核においてp53およびmtTFAの遺伝子発現が分子会合によりどの様な制御を互いに受けるか検討する。 (予定通りの研究)mtTFAと会合する未知の分子についてはタグ法(Flag融合タンパク質)を用いて同定する。すなわち、Flag-mtTFAに結合するタンパク質をSDS-PAGEゲル電気泳動により単離し、アミノ酸配列からタンパク質を同定する。これらのタンパク質がmtTFAに結合することをin vivoおよびin vitroで確認後、mtTFAと同様に発現局在や細胞内移動、遺伝子発現解析を行う。また、mtTFAとの相互機能解析を推し進め、会合タンパク質の過剰発現や発現抑制で細胞増殖やストレス応答、アポトーシス応答に変化が起こるか検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
mtTFA安定発現細胞の作製に1年以上時間をかけているがその作製が非常に困難である。作製後直ちに解析を行うために研究費を一部残していたが、本年度に作製ができず未使用金額が生じてしまった。次年度の研究費は旅費として50,000円、その他として100,000円、残りを消耗品として使用する予定である。
|