TFAMは核にコードされた遺伝子で、TFAMから合成されたタンパク質mtTFA (mitochondrial transcription factor A)はミトコンドリアに移行し、ATP合成に関わる種々の遺伝子発現を転写レベルで制御している。我々は臨床検体を用いた解析から、子宮内膜がんにおいてmtTFAの発現が高いほど予後不良になることを見出した(Virchows Arch 2010;456:387-93)。しかしながら、がん細胞では嫌気的解糖系を優位に利用しているためミトコンドリアでのATP合成の観点からmtTFAの発現が亢進する必然性は低いと考えた。 mtTFAの構造的特徴はミトコンドリア移行シグナルとDNAに結合するHMG (high mobility group)ボックスを持つことであり、HMGボックス内に核移行シグナルが存在することからmtTFAは核においても転写因子として機能するのではないかと仮説を立てた。実際に前立腺がん細胞株では、mtTFAは核にも存在し、BIRC5 (Survivin)の発現を直接転写レベルで制御することを見出した。さらに、臨床検体を用いた解析から卵巣がんにおいてmtTFAの核内発現が高いと予後不良であること、mtTFAがBCL2L1 (Bcl-xL)の発現を直接転写レベルで制御することを見出した。最終年度は、mtTFAのゲノムDNA結合部位を明らかにするため、mtTFA安定発現細胞を簡単に樹立する方法を確立した。本研究では、mtTFAが核内へ移行して転写因子として機能すること、mtTFAは抗アポトーシス分子として知られているBIRC5 (Survivin)やBCL2L1 (Bcl-xL)の発現を転写レベルで制御することから「mtTFAはストレス耐性分子である」ことが示唆され、mtTFAの新たな機能を見出した。
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