研究課題
ヘムは全ての細胞で合成され、様々なタンパク質の補欠分子として必須の働きを担う小分子で、その生合成の調節は主としてヘム生合成系の初発反応を触媒する5-アミノレブリン酸合成酵素(5-aminolevulinate synthase: ALAS)の発現の調節により行なわれている。ALASには全ての細胞で発現しているALAS1と赤芽球系細胞でのみ発現しているALAS2の二つのアイソザイムが存在し、赤芽球ではALAS2が、その他の細胞ではALAS1が細胞内のヘム量を適切に維持する。ALASはゲノムにコードされ、ミトコンドリアのマトリクスに移行して機能する酵素で、転写・翻訳・翻訳後調節の全ての段階でその発現が制御される事が知られているが、本研究は未知のALASの発現制御機構を明らかにする事を目的に行なわれた。まず、ヒトALAS2に関してはカルボキシル末端の約30アミノ酸が本来の酵素活性を抑制する事により赤芽球中のヘムの合成を適切に制御すること明らかにし、さらに、ALAS2遺伝子の第1イントロンに転写を促進する未知のエンハンサー領域が存在する事を明らかにした。また、平成25年度にはALAS1タンパク質の翻訳後調節機構を明らかにする事を目的に、質量分析装置を用いてALAS1タンパク質と相互作用をするタンパク質の同定を試み、ALAS1タンパク質と細胞内で複合体を形成するタンパク質として100種類以上のタンパク質を同定した。それらの中には細胞質におけるALAS1タンパク質の凝集を抑制する機能を有するとみられるシャペロンタンパク質や、ALAS1の分解に関わると考えられるタンパク質分解酵素なども含まれており、細胞内のヘム量の変化に応じてALAS1の機能を制御する可能性が高いと予想される。今後はこれらのタンパク質がどの様にALAS1タンパク質の機能発現に関わっているのかを明らかにする予定である。
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