研究課題/領域番号 |
23590356
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
滝野 隆久 金沢大学, がん進展制御研究所, 准教授 (40322119)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 癌細胞 / 浸潤 / 運動 / MMP / 細胞外マトリックス / インテグリン / 極性 |
研究概要 |
生体内においてがん細胞は細胞外マトリックス(ECM )に囲まれて存在しており、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)などのECM分解酵素を用いてECMの再編を繰り返しながら増殖や浸潤していると考えられる。膜型1-MMP(MT1-MMP)によるフィブロネクチンの重合と集積の制御機構を検討した。 デキサメタゾン(DEX)はヒト線維肉腫HT1080細胞における細胞性FNの産生を亢進するが、フィブロネクチンの重合と集積(線維化)は誘導しなかった。しかし、DEXとMMP阻害剤を併用処理することで細胞周囲におけるフィブロネクチンの線維化誘導が認められた。この線維化はDEX処理と組織MMP阻害物質(TIMP-2)の過剰発現およびsiRNAを用いたMT1-MMPの発現抑制によっても誘導された。siRNAを用いたフィブロネクチンの発現抑制はDEXとMMP阻害剤処理による細胞性フィブロネクチンの産生抑制と同時にフィブロネクチン重合を顕著に抑制した。遺伝子導入による細胞性フィブロネクチン発現とMMP阻害によりフィブロネクチンの線維化が誘導されたことから、MT1-MMPは細胞表面におけるフィブロネクチン重合を制御していることが示唆された。DEXとMMP阻害剤の併用処理によるフィブロネクチンの線維化誘導はMMP阻害による3次元コラーゲン中のHT1080細胞の増殖抑制を部分的に回復する一方で、コラーゲンゲル中の細胞運動の抑制を増強した。この結果はフィブロネクチンの沈着と線維化が細胞生存シグナルを細胞に付与する一方で、細胞-ECM間接着を強固にすることにより細胞運動の抑制を招いたことに起因すると考えられた。以上の結果から、フィブロネクチンの線維化は細胞接着の増強により細胞運動を負に制御しており、MT1-MMPはこのフィブロネクチン線維化過程を抑制することで細胞運動・浸潤を亢進することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) MT1-MMPによるECM分解と細胞運動の極性形成維持機構MT1-MMPによる局所的フィブロネクチン分解に起因した細胞接着の不安定化が、細胞運動・浸潤の亢進に重要であることを明らかにした。次に、フィブロネクチンの集積にはカドヘリンを介した細胞-細胞間接着の増強が重要であることから、MT1-MMPの細胞間接着に対する影響を検討した。その結果、MT1-MMPは細胞表面のN-カドヘリン量を制御していることが判明した。MT1-MMPの発現を抑制した細胞では、活性化Srcの減少が認められ、Srcの基質であるパキシリンのチロシンリン酸化レベルが低下していた。Src阻害剤処理やsiRNAを用いたc-Srcの発現抑制もN-カドヘリン蛋白の増加を誘導したことから、MT1-MMPはc-Srcを介して細胞表面のN-カドヘリンレベルを制御していると考えられた。また、MT1-MMP発現抑制によるN-カドヘリン蛋白の増加には、ファイブロネクチンの重合が必要であったことから、MT1-MMPは細胞―ファイブロネクチン接着の増強により誘導されるN-カドヘリン接着の安定化を阻害すると同時に、Srcの活性化を介してN-カドヘリン接着を抑制し、細胞運動を促進することが推察された。2)PTEN結合分子によるMT1-MMPと細胞運動極性制御機構の解析PTENのC-末端との結合が確認されたがん抑制遺伝子であるヒストンアセチル化酵素Tip60についての解析を行った。PTENとTip60の結合は、Tip60の活性依存的にPTENの安定化と核内移行を亢進することが判明した。脱アセチル化酵素阻害剤による細胞処理およびTip60の過剰発現はMT1-MMPによるMMP-2活性化を抑制し、Tip60のノックダウンはMT1-MMP活性を亢進する結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
1) MT1-MMPによるECM分解と細胞運動の極性形成維持機構ECM―細胞接着と細胞―細胞間接着の相互作用により構築される細胞接着ネットワークは、細胞極性や形態形成のシグナル伝達制御に重要な役割を担っていると考えられる。MT1-MMPが細胞接着ネットワーク、特に細胞接着斑とカドヘリン接着に及ぼす影響を継続して詳細に解析し、MT1-MMPの増殖因子的作用、上皮極性や上皮管腔形成を制御している機構を明らかにする。また、細胞競合や細胞浸潤過程におけるMT1-MMPと細胞接着ネットワークの役割も解明する。2)PTEN結合分子によるMT1-MMPと細胞運動極性制御機構の解析PTENとTip60の結合が、お互いの酵素活性に与える影響を解析するとともに、その生理学的意義を探求する。PTENとTip60の細胞浸潤能への影響を過剰発現およびsiRNAによるノックダウンした細胞を用いてボイデンチャンバーを用いた浸潤能測定法やI型コラーゲンゲル及びマトリゲルを使用し経時観察可能な顕微鏡とその解析装置により細胞の経時的観察を行う。その他のPTEN結合分子につてもPTENの活性・安定性・細胞質-核内移行に対する影響を免疫沈降法、immunoblotting、および免疫染色法にて引き続き解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
3次元細胞培養用の細胞外マトリックス、siRNAの作成、リン酸化抗体の大量使用を予定している。
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