研究課題
本研究では疾患の発症や進行におけるRhoファミリーシグナル伝達系の下流のリン酸化シグナルネットワークに注目して、Rho-kinase, PKN, MRCK, aPKC, PAK等のキナーゼについて申請者が開発したインタラクトームを基盤とした網羅的基質同定(KISS法)を行い、疾患発症・進行との関わりを明らかにすることを目指す。平成24年度には、Rho-kinaseの基質スクリーニングより得られたScribに注目して解析を行った。Scribは癌抑制遺伝子、および平面極性(Planar cell polarity: PCP)制御因子として知られており、Scrib変異マウスでは発生過程における神経管閉鎖不全や心臓、腎臓の形成不全等が観察される。これまでにRho/Rho-kinaseシグナル経路がPCPの制御に関与することが示唆されてきたが、その分子機序については不明の点も多く残されていた。Rho-kinaseによるScribのリン酸化部位を同定してリン酸化抗体を作製し、細胞内でRho-kinase依存的なScribのリン酸化を確認した。さらに、Scrib結合蛋白質の探索を行ったところ、Shroom2がリン酸化Scribに対してより高い結合性を示すことを見出した。Shroom2はこれまでにRho-kinaseと相互作用し、Rho-kinaseを介して細胞の収縮能を調節することが示唆されていた。本研究でShroom2がPCP制御因子であるScribとRho-kinase依存的に結合することが示唆されたことから、発生過程における組織形成の分子基盤の一端が明らかになることが期待される。また、PKN、aPKC、PAK7については、新規基質候補の中から幾つかの分子についてin vitroのリン酸化を確認した。AMPKやCaMK1などのキナーゼについてもスクリーニング条件の検討を開始した。
2: おおむね順調に進展している
今年度は昨年度のスクリーニングで得られたRho-kinaseの基質候補に関して、特にScribに注目してリン酸化の生理機能についての解析を行った。Scribについて、リン酸化部位の同定、リン酸化抗体作製、細胞内におけるリン酸化の変動解析、およびリン酸化によるShroom2との結合調節機構の解析を行い、ScribとRho-kinaseの関わるシグナルカスケードについての理解が大きく進んだ。また、PKN、aPKC、PAK7については、スクリーニングにより得られた新規基質候補の一部についてin vitroリン酸化実験を行い、実際にリン酸化を受けることも確認した。以上のことより、本年度研究開始時に立てた実施計画と目標はほぼ100%達成出来たと考える。
引き続き、Rho-kinaseによるScribのリン酸化の生理機能の解析を続ける。PKN、aPKC、PAK7の新規基質候補についても、キナーゼと各々の基質との関連、生理機能の解析を行う。さらに、AMPKやCaMK1などのキナーゼについても基質のスクリーニングを行う。
上述のように、キナーゼ基質スクリーニングのための試料調製・質量分析による解析に必要な費用を使用する予定である。また、得られた候補蛋白質の解析のための生化学・細胞生物学実験のための試薬費等を使用する予定である。
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Molecular Biology of the Cell
巻: 23 ページ: 2593-2604
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