研究概要 |
がん経過中に起こるがん性悪液質は、主として栄養失調に基づく病的な全身の衰弱状態であり、がん死の約20%において直接的原因となっており、がんの異常増殖や浸潤・転移などと並ぶがんの悪性化の指標となりえる。しかしながら、その分子基盤は大部分が未解明である。 申請者らは自ら確立した条件的遺伝子改変型の横紋筋肉腫モデル動物と樹立した細胞株を用いて、がん性悪液質の発症機序を腫瘍因子とホスト因子およびその相互作用の観点で解析してきた。過年度まで、炎症性サイトカインIL-6と脳性ナトリウム利尿ポリペプチド(BNP)が、カヘキシアを誘発する能力の極めて低いがん細胞クローン株RMS6をカヘキシア高誘発細胞に悪性転換する知見を得た。今年度はこれらの分泌因子のシグナルクロストークの可能性についての解析を行った。 肉腫由来のカヘキシア高誘発株を移植し、腫瘍形成後、腫瘍のBNPのRNA量は腫瘍のIL6のRNA量と血清IL-6たんぱく濃度のいずれにも有意に正の相関を示した(それぞれF=0.0024、F=0.01)。しかしながら、抗IL-6受容体抗体によって、腫瘍細胞株移植時からIL-6シグナルを遮断しても腫瘍のBNPのRNA量に変化はなかったことから、BNPシグナル伝達系がIL6シグナル伝達系の上位であることが示唆された。このことは、RNA干渉により、IL-6またはBNP遺伝子を部分的サイレンシングを行った結果、BNPサイレンシングはIL-6のRNA量を減少させたが、IL-6サイレンシングによってはBNPのRNA量は変化しなかったことからも支持される。さらにRMS6とBNP遺伝子導入細胞株RMS6-BNPに由来する腫瘍の発現mRNAについてマイクロアレイ解析を実施し、新たに副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)遺伝子を見出した。 今後、BNP,IL-6,PTHrPのカヘキシー形成おける関連を解析したい。
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