近年、血中の遊離脂肪酸が肝細胞内で中性脂肪合成の基質となるのみならず、4型Toll-like受容体(TLR4)などの受容体を介してシグナルを伝達することが明らかとなった。TLR4は栄養過多に起因する「代謝異常である脂肪肝」と、それに加わる「免疫応答を伴うNASH」とを結び付ける接点となる可能性がある。 本研究は、1)TLR4の天然変異モデルマウスであるC3H/HeJを用いて、NASH発症におけるマクロファージ(MΦ)活性化の意義および、2)肝臓における炎症の惹起による肝インスリン抵抗性への影響を検討することを目的とした。 TLR4の野生型(C3H/HeN)と変異型(C3H/HeJ)のマウスについて、初代培養肝細胞と腹腔MΦを単離する系を確立し、それぞれの培養系を用いてLPS刺激やTNF-α刺激に対するmRNA発現を検討した。その結果、肝細胞、MΦともに野生型に比して変異型は炎症が惹起されにくいことが確認できた。続いて、肝細胞とMΦをそれぞれ野生型と変異型で2x2の組み合わせで共培養を行い、LPS刺激に対する炎症応答をmRNA発現で確認した。その結果、MΦが変異型であること、肝細胞が変異型であることは相加的に炎症反応を惹起しにくくしていた。さらに、この共培養の系においてインスリン刺激に対するAktのリン酸化を検討したところ、肝細胞のタイプ、MΦのタイプに関わらず、共培養環境下にしただけで、肝インスリン抵抗性となった。この効果はLPSによるMΦの活性化と無関係に認められた。 このことから、肝細胞近傍にMΦが遊走してくることが肝インスリン抵抗性を惹起する要因となっていることが明らかとなった。TLR4変異型マウスでは、MΦの遊走が弱いことが、肝インスリン抵抗性を起こしにくくしていると考えられた。 以上より、肝インスリン抵抗性にはTLR4の発現が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
|