研究課題/領域番号 |
23590365
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
後藤 知己 熊本大学, 教育学部, 教授 (20264286)
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キーワード | 小胞体ストレス / CHOP / ミトコンドリア / 活性酸素 / ミトコンドリアストレス |
研究概要 |
ほ乳類をはじめ多細胞生物は、個々の細胞において内外からのストレッサーに対応しきれない場合には、細胞が機能障害におちいり、その結果、細胞内容物を放出する細胞死をおこし、周囲の細胞に致死的な悪影響をもたらす事を防止するため、プログラムされた細胞死機構であるアポトーシス機構を備えている。小胞体ストレス機構も細胞内ストレスセンサーとして働き、過剰なストレスを受けた場合には、アポトーシス経路を活性化するが、その際、そのシグナルはミトコンドリアに伝達され、アポトーシス実行分子群の活性化につながる。一方、近年、直接的なミトコンドリアの機能障害に対する応答経路であるミトコンドリアストレス応答が注目されているが、この経路においても過剰なストレッサーに対してはアポトーシスが誘導される。ところが、このミトコンドリアストレスにおいて、小胞体ストレス誘導性アポトーシスにおいて重要な働きをする転写因子CHOPの関与が報告されている。この他にも小胞体とミトコンドリアの膜に共通して、アポトーシス調節に重要なBcl2ファミリー分子が存在する。このように小胞体とミトコンドリアはストレス応答において密接な関係をもつが、その機構には不明な点が多い。本年度我々は、小胞体ーゴルジ系の膜のスフィンゴミエリン脂質異常を示すマウス(SMS1ノックアウトマウス)をモデルに、ミトコンドリア機能への影響の伝達機構、小胞体ストレス関連因子の動態について検討した。その結果、ミトコンドリア内膜の電子伝達系の異常がATP産生を障害するとともに、活性酸素産生を亢進させている事が明らかとなったが、ミトコンドリアへの影響がどのように伝わるのかは、現在、検討中である。 また、直接ミトコンドリアに薬剤による機能異常をおこしたミトコンドリアストレスの場合、小胞体ストレス応答経路がどのように誘導されるかの検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小胞体ストレス誘導性アポトーシス経路の解明において、ミトコンドリアがどのように関与しているのか、ミトコンドリアにどのような機構でシグナルが伝達するのかは解明すべき大きな課題である。小胞体ストレス誘導性アポトーシスにおいて転写因子CHOPが重要な機能を果たしている事、小胞体膜上のセンサーが感知したストレッサーをどのようにして核に伝達し、CHOPの転写誘導につなげているかについては、これまでの研究でかなり明らかになっている。しかし、その後にアポトーシス作用分子の誘導、活性化に働く分子が存在する、もう一つの重要な細胞内小器官であるミトコンドリアにどのようにしてシグナルが伝達され、その結果、まず何がおこるのかは、未だ不明の点が多く、本研究においても中心的な課題である。平成24年度の研究において小胞体ーゴルジ系の膜組成の異常がミトコンドリア機能異常につながる系、およびミトコンドリアの機能異常を示す系(マウス)の実験を開始する事により、これまでの実験系では解析が困難であった、小胞体ストレスとミトコンドリアの関係を明らかにするための解析系を得る事ができた。すでに、小胞体ーゴルジ系の膜の異常がミトコンドリアでの活性酸素産生を亢進させる事を明らかにできたが、活性酸素は重要な小胞体ストレス誘導因子でもあるので、アポトーシスによる細胞死に向けて、二つの細胞内小器官がいかに連関して働いているかを、これから明らかにしてゆくことができるのではないかと考えている。また、ミトコンドリアに負荷をかけて細胞死に向かわせる系を構築し、この場合の小胞体ストレス系、あるいは小胞体膜上に存在する分子群の関与機構を解析する事により、広く細胞のストレス応答において、細胞内小器官間の連携機構を明らかにできると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度においては、まず、膜系の脂質組成の異常が、どのようにミトコンドリアの機能異常につながるのかをノックアウトマウスからMEF細胞を調整し、検討するとともに、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア以外の細胞機能への影響にも注目し、ストレス応答の全貌の解明に勤める。また、ミトコンドリアストレスを誘導できるノックアウトマウスの実験やミトコンドリアに過剰発現させることによってミトコンドリア機能障害を惹起できる事が報告された変異タンパク質、ミトコンドリアに負荷をかけてミトコンドリアストレス応答を惹起できる薬剤を利用し、未だ不明の点が多い、ミトコンドリアストレス経路の解明を行うとともに、とくに小胞体ストレス経路への影響に重点をおいて解析する予定である。その際、ミトコンドリアストレスに関連したノックアウトマウスについては、これまでの検討で、ヘテロノックアウトのマウスや細胞では、かなり強い負荷(大量の薬剤投与など)を行わなければストレスが誘導できない事が分かっている。この条件では、小胞体やミトコンドリア以外への影響も大きく、短時間で細胞は死んでしまい、必要な解析は困難だと判断している。しかし、ホモマウスは胎生致死である。そこで、現在、胎児からのホモノックアウトのMEF細胞の樹立を行っている。また、培養細胞においてRNAiによるノックダウンを行い、必要な実験系を構築する予定である。 さらにCHOPノックアウトマウスにミトコンドリアストレスを誘導し、その機構がどのように修飾されるのかを明らかにする事により、小胞体ストレス-CHOP経路とミトコンドリア由来のストレスとの関係を明らかにする予定である。これにより、小胞体とミトコンドリアという二つのオルガネラが、どのように協力し、そしてストレッサーの種類により、どのように役割分担しているかを明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度においては、マウスからMEF細胞を樹立し、薬剤投与により、ストレス応答を誘導し、PCRやウエスタンブロットにより、関連分子の動態を解析するため、必要な培養関係器具、試薬、キットなどを購入する予定である。また、培養細胞においてノックダウンにより関連分子を特異的に機能阻害し、その影響をみるため、RNAiの合成や関連試薬の購入が必要になる。 また、この領域では次々と新たな発見が報告されているため、関連する学会に出席し、情報収集する予定である。
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