研究課題/領域番号 |
23590370
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
合田 亘人 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00245549)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 肝臓 / 低酸素 / HIF / 脂質代謝 / 糖代謝 |
研究概要 |
本研究課題の目的は、肝硬変や肝がんなどの重篤な肝疾患の前病態である脂肪性肝炎・脂肪肝の発症や進展に低酸素応答が係わっていることを明らかにし、その病態生理学的意義について分子レベルで明らかにすることにある。本年度はアルコールや高糖質・脂質食摂取による肝内酸素環境の変化を低酸素感受性プローブおよび抗HIF-1a抗体を用いて解析し、これらの処置により肝内中心静脈領域優位に低酸素環境が形成され、かつHIF-1の活性化が起きることを明らかにした。アルコール性脂肪肝において活性化されるHIF-1が、転写抑制因子DEC1の誘導を介してSREBP1c発現を抑制することにより、脂肪蓄積に対して抑制的に作用することを見いだした(J Hepatol, 2012)。また、HIFaタンパク質安定化に係わるプロリン水酸化酵素阻害剤DMOGの投与により、アルコールによる肝脂肪蓄積がコントロールマウスでは減少することを見いだし、HIFの活性化が病態治療に繋がる可能性を示した。さらに、このDMOGによる効果がHIF-1a欠損マウスでは認められないことから、アルコール性脂肪肝ではHIF-2の脂質代謝に対する影響は小さいものと推察した。HIF-2a欠損マウスではアルコール投与による肝脂肪蓄積はコントロールマウスと同程度に生じることから、この推論が妥当であるとの結論を導いた。一方、高糖質・脂質食投与による肝脂肪蓄積に密接に係わるインスリン抵抗性についてHIF-1の関与を検討した結果、HIF-1の活性化による肝グルコキナーゼ発現増強が、病態初期における肝臓の糖取り込みを増強させることで食後高血糖を抑制し、結果として末梢組織におけるインスリン抵抗性を軽減することを明らかにした(BBRC, 2011)。以上の結果より、HIF-1が病態下の肝臓内糖・脂質代謝制御機構に対して病態抑制的に作用していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的に掲げた4つ全ての項目に着手し、それぞれの項目においてほぼ当初の計画通り実験を進めることができた。研究成果としては、アルコール性脂肪肝におけるHIF-1alpha遺伝子欠損によるSREBP1cの活性化メカニズムの全貌が明らかにでき、その結果を含めた成果を論文としてまとめることができた点は当初の予想以上のものであった。特に、アルコール性脂肪肝におけるHIF-2の関与の有無について検証できた点は、本研究課題の当初の予定には含まれていなかった成果で、アイソフォーム間の病態機能の特異性を示した点は低酸素応答の多様性を示す大きな成果であると考えられる。また、NASHモデルにおけるHIF-1の病態生理作用について、その一部が解明でき論文として報告できた点も予想以上の成果であった。一方、肝炎発症に係わるHIFの解析については、そのモデル作成に予想以上に時間が掛かっており、まだはっきりとした結果は得られておらず、平成24年度以降さらに詳細な解析を行う必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度は脂肪肝の発症・進展におけるHIF-1の役割について解明が進み、HIF-1が脂肪合成系の制御を介して重要な役割を果たしていることが明らかになった。一方で、HIF-1がミトコンドリア機能に密接に係わっていることから、脂肪酸化系にも何らかの影響を及ぼす可能性が考えられる。そこで、平成24年度は、主に脂肪酸化系障害により発症する新たな脂肪肝モデル(コリン欠乏食投与モデル)を用いて解析を進める。また、このモデルでは長期投与により肝炎および肝線維症が発症することが報告されているため、慢性炎症におけるHIF-1の関与を組織学的、分子生物学的および生化学的手法を用いて解析に取り組む。さらに、脂肪性肝炎の発症・進展における炎症系細胞のHIF-1の病態生物作用を解析するために、これらの細胞特異的にHIF-1遺伝子不活化を誘導することができる遺伝子改変動物を用いて同様に解析する。当初の予定には計画されていなかった、高脂肪食あるいはアルコール投与により誘導する脂肪肝に、セカンドヒットとしての刺激をさらに付加することで脂肪性肝炎を発症させることで、早期発症型の病態モデルの作出も試みることで研究の進捗を早めることも試す予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画通り、研究費のほとんどは消耗品として、実験用動物の飼育管理費、病態モデル作成のための特殊食の購入費、タンパク質・遺伝子発現解析に係わる試薬購入費、in vitro細胞培養用プラスティック用品の購入費などの一部を本研究費から支出する。また、学会参加費を含めた発表のための旅費も計上しているが、これも予定通りと言え、大きな変更は予定していない。
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