ケモカイン受容体CXCR7は、乳がんや肺がんをはじめとする種々の腫瘍において、細胞のがん化や増殖、血管新生等に関与することが報告されてきている。我々はこれまでに、成人T細胞白血病(ATL)に関わるHTLV-1ウイルス感染T細胞において、CXCR7がHTLV-1転写制御因子であるTax依存的に発現し、その制御にはNFkBが重要であることを明らかにした。また、CXCR7はHTLV-1感染T細胞において、抗アポトトーシス作用により細胞の増殖を保持・促進することを明らかにした。本研究では、乳がん細胞におけるCXCR7の発現制御について検討を行ったところ、HTLV-1感染T細胞に比べてNFkBの関与が小さいことがわかった。そこで、乳がん細胞におけるCXCR7の発現と機能をさらに解析する目的で、CXCR7特異的低分子アンタゴニストCCX771(1μM)を添加し、マイクロアレイ比較解析を行った。その結果、CCX771処理により、ポリコーム群タンパク質、細胞外プロテアーゼやアポトーシス関連遺伝子等の発現上昇が認められた。ポリコーム群タンパク質は、細胞周期、DNA修復や細胞の分化等に関与し、その発現異常はがん化に関連していることが示唆されている。しかしながら、アンタゴニストによるCXCR7の発現抑制は、がん化の抑制に作用すると考えられるため、ポリコーム群タンパク質発現上昇の機能的意義について、さらに検討が必要である。
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