研究課題/領域番号 |
23590377
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鐘ケ江 裕美 東京大学, 医科学研究所, 助教 (80251453)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アデノウイルスベクター / 遺伝子治療 |
研究概要 |
ヘルパーウイルス依存型アデノウイルスベクター(HD-AdV)は、ベクターに対する免疫原性の少ない長期発現型ベクターとして、遺伝病に対する遺伝子治療などへの有用性が期待されているものの、発現効率がE1置換型ベクターよりも劣っていることも報告されており、この問題を解決することはHD-AdVの遺伝子治療における応用範囲を格段に上昇するだけでなく、例えばゲノムから大きく切り出した細胞特異的プロモーター領域の応用も可能になり、生体内で起こっていることをより忠実に再現することも可能になると考えられることから発生研究などにも有用性が高い。本研究はHD-AdVのサイズを調整するために挿入するスタッファーを最適化すること、HD-AdV化において欠失したベクターゲノム上に存在することが示唆されている目的遺伝子の発現効率に寄与している領域を同定し最適化することにより発現効率を格段に上昇する有用性の高いHD-AdVシステムを構築するとともに、HD-AdVとゲノム領域から切り出した細胞特異的プロモーターを組み合わせた細胞特異的発現ベクターの作製と評価を行うことが最終目的である。平成23年度にはスタッファー領域の検討と最適化及び目的遺伝子の発現効率上昇に寄与しているウイルスDNA領域の検索を行い、これまで用いられてきたスタッファーよりも約3倍目的遺伝子の発現を上昇するスタッファーとしてHPRTのnon-coding領域を同定した。また、アデノウイルスゲノム上で目的遺伝子の発現効率に寄与しているDNA領域の特定にも成功し、次年度に予定していたウイルスDNA領域の機能ドメインの探索についても検討を始めた。その結果、わずか300bpにまで短絡しても目的遺伝子の発現効率を上昇する機能が保持されていたことから、この現象はウイルスタンパク質に依存していない可能性が強く示唆され、有用性が極めて高いと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度に同定した「目的遺伝子発現上昇」に寄与するアデノウイルスゲノム領域は、研究が予定よりも進展し300bpまで機能ドメインの絞り込みに成功しており、ウイルス由来のタンパク質がコードされていない可能性が強く示唆されている。またこれらの解析は全て目的遺伝子発現ユニットの下流にウイルスDNAを挿入したプラスミドのトランスフェクションを用いており、CAGプロモーターなどの強力なプロモーターからの目的遺伝子の発現を2倍以上上昇していたことから、遺伝子治療のみならず基礎研究にも応用が可能な有用性の高い領域であると考えている。HD-AdVに挿入するスタッファー領域についても従来用いられてきたスタッファーよりも目的遺伝子の発現を約3倍上昇するオリジナリティーの高いスタッファーの同定に成功しており、任意の大きさにトリミング可能なコスミドの作製にも成功した。これらの結果から、当初の計画よりも順調に本研究が推移していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
目的遺伝子の発現上昇に寄与するアデノウイルスゲノムDNAについては、目的遺伝子発現上昇効果の機序解明としてエンハンサートラップや宿主因子の探索を行う。またこのDNA領域による免疫原性については、この領域を有するHD-AdVを作製しマウスを用いて肝臓における炎症反応の有無等について解析を進める。本申請の最終目的ベクターである細胞特異性を付加したHD-AdVを効率的に作製するためには、発現効率の劣る細胞特異的プロモーターからCreを発現するスイッチユニットとCre依存的に目的遺伝子を高効率のプロモーターから発現する標的ユニットを組み合わせることがベストであるが、その場合にはベクター作製段階でのスイッチユニットからのCreのリーク発現を抑制することが鍵となる。そこで、申請者が既に同定しているCreに対するshRNAを挿入したヘルパーウイルスを作製し、最適化する。このヘルパーウイルスは、同じく申請者が報告した「低炎症型ベクター」として作製し、わずかに混入しても影響が最小限になるよう工夫を加える。
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次年度の研究費の使用計画 |
目的遺伝子発現上昇に寄与するウイルスDNA領域の機序解析のためにまずエンハンサートラップを行うため、ルシフェラーゼ活性測定用のキットが必要である。発現量の定量のため、qPCR用試薬やDNA/RNA抽出キットを購入する。細胞導入効率の詳細な検討のため、PCR用のオリゴDNAの作製、シークエンスも必要となる。またマウスを用いた免疫原性の解析を行うため、Balb/cマウスを購入するとともに、HE染色などを行う。細胞特異的ヘルパーウイルス依存型ベクター作製のためのヘルパーウイルスの作製、目的遺伝子発現上昇に寄与するウイルスDNA解析には、一般的な遺伝子工学用試薬、プラスチック製品及び細胞培養用試薬、プラスチック製品が必須である。
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