研究課題
Bach1-Nrf2システムは種々の抗酸化分子の発現を精緻に制御している。我々はこれまでにBach1によるHO-1の発現制御が虚血再灌流傷害、動脈硬化、圧負荷による心肥大などの心血管疾患の発症に深く関与していることを報告してきた。本研究の目的は、Bach1-Nrf2システムの心血管系における臓器保護作用の分子メカニズムを明らかにすること、さらに酸化ストレス応答の負のマスター転写因子Bach1をRNA干渉にて発現抑制することにより抗酸化遺伝子を協調的に発現させることが、心血管疾患に対する新たな分子標的治療になりうるか否かをモデル動物を用いて検討することである。まず、Bach1の心筋梗塞後の左室リモデリングにおける役割を検討した。Bach1ノックアウトマウスにおいては心筋梗塞後の左室重量、左室拡張末期経、線維化が野生型マウスに比して有意に減少していた。また、Bach1の標的遺伝子の一つであるHO-1の発現は著名に増加しており、Type Iコラーゲン、ANPの発現は有意に減少していた。以上の結果からBach1が心筋梗塞後の左室リモデリングに重要な役割を果たしていることが示唆された。今後、心臓におけるBach1の標的遺伝子を検索することにより、このメカニズムを明らかにする予定である。またBach1をRNA干渉にて発現抑制することが心筋梗塞後の心不全や下肢虚血の治療になりうるか否か検討する予定である。
3: やや遅れている
当初、虚血・再灌流モデルにおいてBach1のRNA干渉による発現抑制を試みていたが、このモデルは梗塞範囲のばらつきが大きく、実験の安定性に欠けるため、より安定性の高い心筋梗塞モデルに転換した。またsiRNAの単独での導入を試みていたが、十分な発現抑制効果が得られなかった。このため今後はアテロコラーゲンなどの担体を用いたデリバリーシステムを試みる予定である。
アテロコラーゲンは極めて抗原性が低く、高い生体親和性と安全性が確認されている担体で、siRNAとの複合体も主として腫瘍モデルにおいてその有効性が数多く報告されている(Nat Med 2008;14:939など)。われわれはBach1-siRNA/アテロコラーゲン複合体を局所投与することによりBach1の発現発現抑制を試みる予定である。siRNA/アテロコラーゲン複合体は全身投与でも有効性が報告されている。心筋梗塞モデルでは局所投与が技術的に困難であることも予想されるため、その際は全身投与を試みる予定である。
主として、抗体、PCR関連試薬、アテロコラーゲンなどの消耗品に使用する。その他、学会参加のための旅費にも使用する。
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Biochem Biophys Res Commun.
巻: 407 ページ: 652-662