研究課題
我々は、自家造血幹細胞移植による新鮮な免疫系の再構築と、免疫治療による腫瘍特異的免疫反応の腑活を合理的に組み合わせることで、抗腫瘍効果を発揮できることを明らかとしてきた。しかし、腫瘍の免疫抑制環境により、抗腫瘍効果はやがて減弱する。そこで、本研究では、造血幹細胞を遺伝子工学的に改変することにより、腫瘍部のみで免疫抑制性環境を根本的に打破し、強力な腫瘍免疫を誘導する新規免疫治療戦略の開発を行う。具体的には以下の3ステップで研究を進める。1)造血幹細胞移植後の腫瘍部での制御性T細胞(Treg)の動態を理解する。2)腫瘍に限局してTreg特異的に自殺遺伝子を発現する新規プロモーターを開発する。3)このコンストラクトを造血幹細胞に導入し、造血幹細胞から分化するTregを腫瘍局所で排除することにより、造血幹細胞移植による腫瘍免疫を持続的に強化する。 平成23年度は、造血幹細胞移植後の腫瘍免疫と、免疫抑制環境の主因であるTregの関連を、マウス骨髄移植モデルを用いて検討した。研究成果は以下の通り:(1) 造血幹細胞移植後、脾臓ではCD4+細胞中のTregの割合が上昇するのに対し、腫瘍ではTregが明らかに減少しており、造血幹細胞移植が腫瘍の免疫抑制環境を打破できることを明らかとした。(2) 造血幹細胞移植後に回復するTregの由来は、移植片に存在するTregが増殖する場合と、造血幹細胞から分化する場合がある。両者の免疫抑制環境構築に果たす役割の違いを明らかとするために、GFP遺伝子改変マウスの骨髄細胞やT細胞を用いて移植を行い、Tregを解析した。脾臓では、40-60%が造血幹細胞から分化したTregであったのに対し、腫瘍では70%が移植片に存在するTregが増殖したものであった。(3) そこで、移植片からTregを除去すると、腫瘍免疫は有意に活性化し抗腫瘍効果は増強されることを明らかとした。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、腫瘍部のみで免疫抑制性環境を根本的に打破し、強力な腫瘍免疫を誘導する新規免疫治療戦略の開発を行うことを目的としている。具体的には、研究実績の概要に示す3つのステップを各年度ごとに行う予定である。本年度は、その第1ステップとして、造血幹細胞移植後の腫瘍部での制御性T細胞(Treg)の動態を理解するために、(1)造血幹細胞移植後の、脾臓と腫瘍部のTregの動態を解析する、(2)造血幹細胞移植後に回復するTregの由来を、GFP遺伝子改変マウスを用いて明らかとする、(3)移植時に移入した制御性T細胞が、造血幹細胞移植による抗腫瘍免疫誘導や免疫抑制環境確立においてどのように影響するのかを検討する、という計画であった。そして、実際に、これらをすべて検討し、造血幹細胞移植が腫瘍のTregを減少させて免疫抑制環境を打破できること、腫瘍部において浸潤・増殖して免疫抑制環境を再構築するTregは移植片に存在するものが由来であること、そして移植片からTregを除去することにより抗腫瘍効果を増強できることを明らかとし、今年度の研究計画を達成することができた。このように、現在まで、研究は計画通りに順調に進展している。
(平成24年度)腫瘍に特異的な環境下で制御性T細胞において作動する新規遺伝子発現系を開発する。Foxp3は制御性T細胞に特異的に発現している転写因子であり、Foxp3遺伝子のプロモーターとエンハンサーを用いることにより、制御性T細胞特異的に遺伝子を発現することが可能となる。さらに、低酸素状態は、生体では腫瘍などの病的な部位でしか起こらないことを利用し、低酸素下で遺伝子発現を誘導する配列と、正常酸素下で遺伝子発現を抑制する配列を組み合わせたhypoxia誘導配列を作成し、それをFoxp3プロモーター上流に配置した低酸素誘導Treg特異的プロモーターを構築する。(平成25年度)上記遺伝子発現系を用いて、造血幹細胞移植後に腫瘍部においてのみ制御性T細胞を除去し抗腫瘍免疫を強化できるか検討する。まず、構築したFoxp3プロモーターが本当にマウスの生体内で制御性T細胞特異的に機能するか確かめる。Foxp3プロモーター下流に自殺遺伝子である単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子を組み込む(低酸素誘導Treg特異的自殺遺伝子発現システム)。このコンストラクトを、制御性T細胞に遺伝子導入し、担がんマウスに移入し、プロドラックであるガンシクロビールを腫瘍内に投与して、腫瘍内に浸潤している制御性T細胞が減少することを確かめる。次いで、造血幹細胞移植後に腫瘍局所で制御性T細胞を除去できるか検討する。上記確立した低酸素誘導Treg特異的自殺遺伝子発現システムを、レトロウイルスベクターを用いて造血幹細胞に導入し、担がんマウスにおいて、この造血幹細胞を用いて移植を行い、免疫系の再構築を確認し、腫瘍免疫の誘導を解析する。特に、ガンシクロビールの全身投与により腫瘍内での制御性T細胞数が減少するか、抗腫瘍免疫を増強できるか、脾臓などの正常臓器においては制御性T細胞数が減少しないか、に着目する。
平成24年度の主な実験は、1.自家造血幹細胞移植、2.抗腫瘍効果や制御性T細胞の免疫学的解析、3. 骨髄細胞への遺伝子導入と自殺遺伝子療法である。1. 自家造血幹細胞移植に関しては、移植のためのドナー及びレシピエントとしてBALB/cマウス150匹300千円、プラスミド作製・精製に50千円、CD3細胞やCD25細胞を分離するために磁気ビーズカラムが2個192千円必要である。2.免疫学的解析に関しては、ELISpot解析用プレートやマルチプレックスサイトカイン計測に458千円、リンパ球や腫瘍細胞の培養用に50千円必要である。3. 骨髄細胞への遺伝子導入と自殺遺伝子療法には、レトロウイルス作成に150千円、エレクトロポレーションやレシフェレーゼ解析試薬・プロドラック(ガンシクロビール)に300千円必要である。従って、平成24年度は1,500千円の経費を使用する予定である。
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Gene Terapy
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