研究課題/領域番号 |
23590391
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
味岡 洋一 新潟大学, 医歯学系, 教授 (80222610)
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研究分担者 |
若井 俊文 新潟大学, 医歯学総合病院, 講師 (50372470)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 炎症性発癌 / 潰瘍性大腸炎 / DNA二重鎖切断 / DNA損傷応答 / 免疫組織化学 |
研究概要 |
(1) 炎症性発癌病変に対する対照として、通常の腺腫・粘膜内癌96例、浸潤癌56例のγH2AX発現(DNA二重鎖切断マーカー)とγH2AXと53BP1との共局在(DNA損傷応答初期反応)について検討した。γH2AX発現パターンは、発現なし(null)、点状(foci)、び慢性(pan-nuclear)および後2者のいずれもみられるもの(mix)に分類された。腺腫・粘膜内癌(null: 70.8%, foci: 9.4%, mix: 7.3%, pan-nuclear: 12.5%)と浸潤癌(37.5%, 5.4%, 30.3%, 26.8%)とで発現パターンに有意差が認められた(p<0.001)。γH2AXと53BPとの共局在率は、浸潤癌(51.6%)が腺腫・粘膜内癌(87.2%)に比べ有意に低かった(p<0.001)。すなわち、通常の大腸癌の発生過程においては、腺腫・粘膜内癌よりDNA二重鎖切断が生じDNA損傷応答が活性化するが、浸潤癌ではDNA損傷応答が破綻していることが推定された。(2) 正常大腸21例、非担癌UC大腸16例、担癌UC大腸11例を対象として、非腫瘍性大腸粘膜におけるγH2AXの発現頻度を検討した。γ-H2AX陽性陰窩の頻度は、非IBD合併大腸(0.4±0.7%)、非担癌UC(9.3±6.9%)、担癌UC(12.1±15.8)であった。UCは非IBD合併大腸に比べγ-H2AX発現頻度が有意に高かった (p<0.001)が、非担癌例と担癌例との間には有意差はなかった。これらのことから、UCの慢性持続性炎症ではDNA二重鎖切断が高頻度に生じており、それが炎症性発癌の背景因子になっている可能性が示唆されたが、担癌UCと非担癌UCとでγ-H2AX発現には相関がなかったことから、DNA二重鎖切断が生じやすい因子として、UC罹患期間などについての検討が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、潰瘍性大腸炎の炎症粘膜には(1)「DNA二重鎖切断」が高頻度に生じていること、(2)「DNA損傷」に対する修復機構の破綻が炎症性発癌に重要な役割を果たしていることを明らかにすることを目的としている。現在までで、(1)については、正常大腸粘膜に比べ潰瘍性大腸炎粘膜では有意にγH2AX発現が高頻度に起きていることを明らかにした。(2)については、炎症性発癌に対する対照例として通常の大腸腫瘍を検討した結果、浸潤癌ではγH2AXと53BP1との共局在率が有意に低下しており、大腸の発癌課程では「DNA損傷」に対する修復機構が破綻している事が示唆された。以上のことから、本研究は目的の達成に対しておおむね順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度までで、潰瘍性大腸炎の慢性持続性炎症粘膜では高頻度にDNA二重鎖切断が起きていること、通常の大腸粘膜における発癌課程ではDNA損傷に対する修復機構が破綻している可能性があることが分かった。今後は、潰瘍性大腸炎に発生する大腸腫瘍を対象としてγH2AX発現および53BP1との共局在状態を解析し、炎症性発癌でもDNA損傷に対する修復機構の破綻が起きているかどうかを確認する。更に、DNA損傷に対する修復機構の破綻状態とp53遺伝子異常(一般に炎症性発癌早期に関与するとされる)や同蛋白により誘導されるアポトーシスとの関連を解析することにより、DNA損傷に対する修復機構の破綻がp53遺伝子異常と共同して発癌を誘発するのか、p53遺伝子異常とは独立した発癌経路なのかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、p53遺伝子異常とアポトーシスについて検討予定であるため、p53遺伝子異常を免疫組織学的に同定するためのモノクローナル抗体、アポトーシス同定キットの購入を予定している。
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