研究課題/領域番号 |
23590391
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
味岡 洋一 新潟大学, 医歯学系, 教授 (80222610)
|
研究分担者 |
若井 俊文 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50372470)
|
キーワード | 炎症性発癌 / 潰瘍性大腸炎 / DNA二重鎖切断 / DNA損傷応答 / 免疫組織化学 |
研究概要 |
ホルマリン固定外科切除正常大腸50症例、非担癌潰瘍性大腸炎大腸104症例、担癌潰瘍性大腸炎大腸13症例の直腸またはS状結腸代表切片、および潰瘍性大腸炎に発生した前癌病変である異型上皮(dysplasia)41領域を対象とした。DNA二重鎖切断(DSB)部位に動員されるリン酸化H2AX (γH2AX)の発現を、免疫組織学的に比較・解析した。dysplaiaはその細胞異型から、低異型度(low grade dysplasia:LGD)と高異型度 (high grade dysplasia: HGD)に分類した。潰瘍性大腸炎の炎症時相は、活動期、慢性活動期、寛解期に分けた。非腫瘍性潰瘍性大腸炎粘膜については、疾患罹患期間とγH2AX発現との相関も検討した。 以下の結果が得られた。 1.非担癌、担癌潰瘍性大腸炎いずれも、正常大腸に比べγH2AX陽性陰窩頻度が有意に高かった(p<0.001)。2.潰瘍性大腸炎の炎症時相別の比較では、非担癌、担癌例ともに活動期のγH2AX陽性陰窩頻度が寛解期に比べ有意に高かった(p<0.001)。 3.同一の炎症時相では、非担癌、担癌例間でγH2AX陽性陰窩頻度に有意差は無かった。4.非担癌潰瘍性大腸炎における罹患年数とγH2AX陽性陰窩頻度の間には有意な相関はみられなかった。5.LGD、HGDいずれも寛解期UC粘膜に比べ、γH2AX陽性陰窩頻度は有意に高かった(p=0.015)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、潰瘍性大腸炎の炎症粘膜には①「DNA二重鎖切断」(DSB)が高頻度に生じていること、②「DNA損傷」に対する修復応答機構の破綻が炎症性発癌に重要な役割を演じていることを明らかにすることを目的としている。現在までで、①については、潰瘍性大腸炎では正常大腸に比べ高頻度にDSBが生じていること、更に潰瘍性大腸炎を背景に発生する前癌病変であるdysplasiaでは潰瘍性大腸炎に比べてDSBが高頻度であったことから、炎症性発癌ではDSBが高頻度に生じていることを示すことができた。 しかし、潰瘍性大腸炎罹患年数とDSB陽性頻度との間には有意な相関はなく、DSBは炎症活動期が寛解期に比べ有意に高頻度であったことから、DSBは必ずしも発癌の高リスクを直接示すものではなく、単に炎症の活動性の指標に過ぎない可能性も否定できない。こうした活動性炎症により生じたDSBに対して②「DNA修復応答機構」が機能しているかどうかを明らかにする必要が残されている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度までの研究成果では、炎症性発癌の対照として通常の大腸腺腫、粘膜内癌、浸潤癌を用い、γH2AXと53BPとの核内共局在率を蛍光免疫染色学的に検討し、浸潤癌では両蛋白の共局在率が粘膜内腫瘍に比べ有意に低くDNA二重鎖切断にたいする修復応答に破綻を来しているものが多いことを明らかにした。今後は、同様の方法論を用い、潰瘍性大腸炎の各種炎症時相粘膜や前癌病変であるdysplasiaについても、γH2AXと53BPとの核内共局在率の検討を行い、これらでも「DNA二重鎖切断」に加え「DNA損傷に対する修復応答機構」が生じているのか、生じているとすればどのような臨床病理学的および組織学的特徴を有する潰瘍性大腸炎か、を検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度はγH2AXと53BPの核内共局在について検討するための蛍光顕微鏡関連物品の購入を予定している。
|