炎症性発癌におけるDNA損傷応答の意義を明らかにすることを目的とした。γH2AX発現をDNA二重鎖切断double strand breaks:DSB)のマーカーに、γH2AXと53BP1の共局在をDSBに対する修復応答(DNA damage resopnse: DDR)のマーカーとした。共局在は二重蛍光免疫染色法を用いた。ホルマリン固定外科切除大腸を材料とし、炎症性腸疾患を合併しない大腸腫瘍(散発性腫瘍):腺腫63病変、粘膜内癌12病変、SM以深浸潤癌53病変、正常大腸50症例、非担癌UC大腸104例、担癌UC大腸13例、UCに発生したUC-IV(浸潤癌)13病変、UC-IV(粘膜内癌)41病変、UC-III(dysplasia)9症例11病変、を検索した。 以下の結果が得られた。 1.UCの炎症粘膜では正常大腸粘膜に比べ高頻度にDSBが生じていた。DSBは炎症の活動性に相関していたが、UCの罹患年数には相関していなかった。2.炎症性発癌早期病変(UC-III: dysplasia)は寛解期UC粘膜に比べ高頻度にDSBが生じていた。炎症性発癌病変では、UC-IV(浸潤癌)はUC-III (dysplasia)に比べγH2AXと53BP1の共局在率が有意に低く、炎症性発癌では浸潤癌でDDRの破綻がおきていると考えられた。3.散発性腫瘍との比較では、UC-IV(浸潤癌)は通常の大腸浸潤癌に比べ有意にγH2AXと53BP1との共局在率が低く、UC-IV(粘膜内癌)は通常の大腸粘膜内癌に比べ共局在率が低い傾向があった。以上のことから、炎症性発癌では通常の大腸癌よりもDDRの破綻が早期におきている可能性が示唆された。
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