研究概要 |
カロリ病は肝内胆管の進行性の嚢状拡張をきたす疾患で,常染色体劣性多発嚢胞腎の肝胆管病変として,近年,多発性嚢胞腎の病態形成におけるAKT-mTORシグナリングの関与が注目されている.本年度は,カロリ病動物モデルとして確立されているpolycystic kidney(PCK)ラットを用い, mTOR阻害薬による胆管上皮細胞の増殖抑制効果を検討した.免疫染色でラット肝組織切片に対しp-AKT, p-mTORを検討した.また,PCKラットの培養胆管上皮細胞(biliary epithelial cell, BEC)にmTOR阻害薬(sirolimus [SL], everolimus [EL], PP242)を作用させ,細胞増殖活性,アポトーシス,オートファジーおよび嚢胞(spheroid)形成に及ぼすmTOR阻害薬の効果を検討した.免疫染色による検討の結果, PCKラットの胆管細胞でp-AKTとp-mTORの発現が正常ラットより亢進していた.SL, EL, PP242はいずれもBECの細胞増殖を抑制し,ウエスタンブロットでp-AKT, p-mTOR, p-P70S6Kの発現は抑制された.3次元培養でPP242はC-BECの嚢胞形成を抑制したが,SLとELに嚢胞形成の抑制効果はなかった.SL, EL, PP242はC-BECのアポトーシスを誘導し,PP242のみがオートファジーも誘導した.mTORにはmTORC1とmTORC2の2種類の複合体が存在し,SLとELはmTORC1阻害薬,PP242はmTORC1+C2阻害薬である.今回の検討結果から,mTORC1+C2の双方を阻害することがPCKラットの胆管拡張の抑制により有効と考えられた.
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