研究課題/領域番号 |
23590394
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山下 依子 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90303643)
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研究分担者 |
豊國 伸哉 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90252460)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 子宮内膜症 / 卵巣明細胞腺癌 / 網羅的解析 / 酸化ストレス |
研究概要 |
卵巣明細胞腺癌は化学療法に抵抗性であり、同病期の卵巣腺癌のなかでも予後が悪い。明細胞腺癌と類内膜腺癌では子宮内膜症による出血に伴う鉄沈着による慢性的な酸化ストレスが発癌の重要な因子であると考えられているが、詳細なメカニズムは不明である。当該年度中に我々はまずアレイCGHを行い、PI3キナーゼ / AKTの経路の上流の受容体型チロシンキナーゼであるMetの遺伝子増幅が卵巣明細胞腺癌のおよそ30%に認められることを発見した。またMetの遺伝子増幅は蛋白レベルでの過剰発現を伴っており、Met遺伝子増幅群は卵巣明細胞腺癌の予後不良因子であることが明らかとなった。この成果をヨーロッパ癌学会で発表した(Yamashita Y et al; European Journal of Cancer 47(1)S529, 2011)。また、当該年度において我々は日本人の子宮内膜症と強い関連があるとされるnon-coding RNA(ncRNA)であるANRIL (CDKN2BAS)の発現を子宮内膜症組織、内膜症症例の不死化内膜上皮細胞及び間質細胞、卵巣明細胞腺癌細胞株で調べ、内膜症関連癌及び上皮細胞で核内に発現しているという結果が得られた。さらに、子宮内膜症の異所性間質細胞に酸化ストレスを与え、発現アレイと質量分析装置を用いて、mRNAと蛋白の両者について網羅的に調べ、pentraxin 3などいくつかの特異的因子を同定した(Kobayashi H et al; Fertility & Sterility, in press)。当該年度で子宮内膜症の詳細な発癌メカニズムをゲノム、RNA及び蛋白レベルでの網羅的解析を行うことで少しずつ明らかにすることができた。本研究の成果が将来的には子宮内膜症関連卵巣癌の発生の予防と治療法の開発に直結するものであると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度は子宮内膜症に関連する卵巣明細胞腺癌における特異的分子の探索を行う予定であったが、計画通り、ゲノム、RNA、タンパクの各レベルにおける特異的分子を同定することができた。さらに、年度内には同定された特異的分子の実際の臨床検体における発現についても検証することができた。また、得られた結果の一部を論文にまとめ、受理された。したがって当該年度は当初の計画以上に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
酸化ストレスから発癌に至る分子経路を同定するために、次世代シークエンサーを用いたRNAシークエンシングによって、明細胞腺癌の細胞株において発現しているnon coding RNAの網羅的解析を行う。特に最近マイクロRNA以外のnon coding RNA (ncRNA)、例えばANRILのイントロンに存在するSNPが子宮内膜症と関連があるという報告がされているので、このような酸化ストレスと関連する新たなlarge ncRNAを中心にスクリーニングする。明らかになった特異的分子について不死化チョコレート嚢胞上皮に遺伝子導入し、その機能について解析を行う。具体的には、不死化子宮内膜症上皮細胞に遺伝子導入したものをヌードマウスに移植する発癌実験を行う。また特異的分子をノックダウンすることによる逆向きの機能解析も並行して行う。ノックダウンの際にはmRFP1で蛍光標識されたshRNA発現ウイルスベクターを用い、移植にはGFPヌードマウスを用いてin vivoイメージング装置で解析し、腫瘍の増殖能、浸潤能、転移能、特に間質との関係や血管新生について明らかにする予定である。さらに、チョコレート嚢胞における正常上皮及び異型上皮、卵巣明細胞腺癌あるいはチョコレート嚢胞合併明細胞腺癌などの組織を用いて特異的分子の局在の組み合わせの詳細について解析するために、FISH, RNA-ISH,免疫染色などの種々の方法を駆使する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の計画に沿って研究を推進するうえで、次世代シークエンサーを用いたRNAシークエンシングやホルマリン固定パラフィン包埋材料を用いたプロテオーム解析など、最新の方法を行う予定である。そのため、現時点でいまだ高額な試薬や消耗品を購入する必要があり、次年度の研究費の多くを充てる予定である。
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