研究課題
卵巣明細胞腺癌は化学療法に抵抗性であり、同病期の卵巣腺癌のなかでも予後が悪い。明細胞腺癌と類内膜腺癌では子宮内膜症による出血に伴う鉄沈着による慢性的な酸化ストレスが発癌の重要な因子であると考えられているが、詳細なメカニズムは不明である。当該年度中に我々はまずアレイCGHを行い、PI3キナーゼ / AKTの経路の上流の受容体型チロシンキナーゼであるMetの遺伝子増幅が卵巣明細胞腺癌のおよそ30%に認められることを発見した。またMetの遺伝子増幅は蛋白レベルでの過剰発現を伴っており、Met遺伝子増幅群は卵巣明細胞腺癌の予後不良因子であることが明らかとなった。さらに、Met遺伝子のノックダウンを行ったところ、Metの増幅を有する細胞株において細胞増殖の有意な低下が認められた。これらの成果がPLoS ONEに掲載された(Yamashita Y et al. PLoS One. 2013;8(3):e57724) また、当該年度において我々はFe-NTA投与ラット酸化ストレス発がんモデルにおいてもヒト卵巣癌と同様に高頻度でMet遺伝子の増幅が認められることをあわせて報告した(Akatsuka S et al. PLoS One. 2012;7(8):e43403.)。当該年度で子宮内膜症の詳細な発癌メカニズムをゲノム、RNA及び蛋白レベルでの網羅的解析を行い、明らかにすることができた。次年度は、卵巣明細胞腺癌においてもっとも重要と考えられるMetの下流シグナルの同定とMetおよび下流シグナルの阻害を利用した卵巣明細胞腺癌の治療法の開発に着手して行きたい。
2: おおむね順調に進展している
子宮内膜症関連卵巣がん、特に卵巣明細胞腺癌におけるMet遺伝子の増幅について、特に酸化ストレス発がんモデルとの類似点に着目し、解析を進めることができた。さらに、Met遺伝子の増幅が卵巣明細胞腺癌の予後不良因子であることを解明し、これらの成果を2本の論文にまとめることができた(Akatsuka S, Yamashita Y et al. PLoS ONE 2012, Yamashita Y et al. PLoS ONE 2013)。さらに、子宮内膜症における異所性間質細胞の発がんにおける役割についての解析を行い、その成果を一本の論文にまとめることができた(Kobayashi H, Yamashita Y et al. Fertil & Steril 2012)。また子宮内膜症と関連の深いnon-coding RNA, ANRILの子宮内膜症由来の上皮や間質細胞での発現について検討し、日本病理学会総会で発表した。以上より、研究の目的についてはおおむね順調に達成しているといえる。
これまでの研究によってMet遺伝子の増幅が卵巣明細胞腺癌において重要な因子であることが明らかとなった。したがって今後はMetの下流のシグナル系、特にAKTに注目し、卵巣明細胞腺癌においてはどのアイソフォームがもっとも重要であるのかを中心に研究を進めて行く。また、MetおよびMetの下流のシグナルを阻害することによる新たな治療法の開発を目指し、培養細胞、マウスなどの生体実験の両方向で有効な阻害剤の探索を行う予定である。さらに、多数症例もしくは明細胞腺癌以外の卵巣腫瘍について次世代シークエンサー等の新しい方法を用いて網羅的に解析し、Metを含む遺伝子異常の有無を検討する。
Met, AKT1-3に対するsiRNAや各種抗体、阻害剤を購入する。培養細胞株、移植用のヌードマウスおよびその継代や維持を行う。次世代シークエンサーを用いた解析を行い、その結果の確認のために定量PCR法や各種in situ hybridization法で多数症例の解析を行う。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (2件)
PLoS One
巻: 8 ページ: -
10.1371/journal.pone.0057724.
巻: 7 ページ: -
10.1371/journal.pone.0043403.
J Pathol
巻: 228 ページ: 366-77
10.1002/path.4075
Fertil Steril
巻: 98 ページ: 415-22
10.1016/j.fertnstert.2012.04.047.