研究課題/領域番号 |
23590397
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
横崎 宏 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10200891)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 病理学 / 癌 / 食道 / マクロファージ / 癌・間質相互作用 |
研究概要 |
マクロファージは免疫を活性化するM1型と抑制するM2型の二極に分化し、M2型は様々なヒト悪性腫瘍の進展に関与する事が報告されつつあるが、食道癌における詳細な解析は見られない。予備的に食道癌組織におけるマクロファージの分布を検討したところ、上皮内腫瘍の時点からM2マクロファージが腫瘍内に存在する事を発見し、早期からの癌-間質相互作用への関与が示唆された。本研究では食道扁平上皮癌の発生・増殖・進展におけるM2マクロファージ/癌細胞相互作用を臨床検体ならびに培養系を用いて解析し、分子病態における意義を明らかにするとともに、早期病変の正確な病理組織診断に応用することを目的とする。本研究計画では、浸潤性食道扁平上皮癌へのM2マクロファージ浸潤と臨床病理学的要因の相関解析【研究1】、食道扁平上皮癌細胞とM2マクロファージの細胞生物学的相互作用の解析【研究2】、食道上皮内腫瘍形成におけるM2マクロファージの役割の解明と病理診断への応用【研究3】を平行して行う。平成23年度は研究1および2を中心に実施した。【研究1】浸潤性食道扁平上皮癌へのM2マクロファージ浸潤と臨床病理学的要因の相関解析:外科的に切除された食道癌78例について、免疫組織化学的にCD68、CD163およびCD204にて汎マクロファージおよびM2マクロファージを可視化したところ、腫瘍組織内M2マクロファージ平均密度は壁深達度の進行とともに有意に増加し、腫瘍内微小血管密度と正の相関を示した。【研究2】食道扁平上皮癌細胞とM2マクロファージの細胞生物学的相互作用の解析:TPA処理単球由来細胞THP-1に食道癌細胞培養上清を作用させるとCD163およびCD204発現が誘導された。cDNAマイクロアレイ解析によりM2マクロファージに分化したTHP-1で特異的に発現誘導される遺伝子群を抽出し、その役割を解析中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究1に関しては十分量の症例数を収集が完了し、M2マクロファージの浸潤と食道扁平上皮癌の増殖、進展に一定の相関関係を得た。研究2に関しては食道癌細胞培養上清によりTPA処理単球性白血病由来細胞THP-1にM2形質が誘導されることが見いだされ、その際THP-1で特異的に発現亢進する遺伝子群をcDNAマイクロアレイ解析で抽出するまで達成され、本年度に計画した以上の実績を得ることが出来た。
|
今後の研究の推進方策 |
【研究2】食道扁平上皮癌細胞とM2マクロファージの細胞生物学的相互作用の解析1)癌細胞と分離培養マクロファージの三次元共培養を試みる。Green fluorescein protein (GFP)発現ベクターを導入し蛍光標識した食道扁平上皮癌細胞を、健常成人末梢血単核細胞より分離誘導したマクロファージの存在、非存在下に共培養後コラーゲンゲルを重層し、癌細胞のゲル内への浸潤や細胞数の変化を共焦点レーザー顕微鏡下に経時的に観察する。2)GFPを指標に共培養後の食道癌細胞を分離、非共培養食道癌細胞に比して発現変化する遺伝子をcDNAマイクロアレイにて網羅的に解析し、抽出された癌細胞/マクロファージ相互作用で発現変化する遺伝子産物の癌細胞の増殖・運動・浸潤や血管新生、細胞外基質リモデリングなど癌微小環境に対する影響を検討する。【研究3】食道上皮内腫瘍の増殖と異型血管形成におけるM2マクロファージの役割1)内視鏡的に切除された食道上皮内腫瘍組織内へのM2マクロファージの浸潤程度および分布と腫瘍組織の増殖活性、血管の形態・分布を免疫組織化学的に解析する。2)研究2のアレイ解析で抽出された癌細胞/マクロファージ相互作用で発現変化する遺伝子産物の食道上皮内腫瘍における発現を免疫組織化学的に解析し、食道上皮内腫瘍の特徴的形態学的構築である上皮細胞増殖と異型血管形成に主たる役割を演ずる因子群を特定する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
1)物品費は全て消耗品費にあて、当該年度の研究計画における実験遂行に必要不可欠である。内訳の大略は、平成24年度(試薬・薬品[抗体、酵素、各種測定キット;34.6万円]、ディスポーザブル器具[ピペットチップ、チューブ類、フラスコ類;18万円]、ガラス器具[スライドグラス、カバーグラス;5万円])、平成25年度(試薬・薬品[抗体、酵素、各種測定キット;24.6万円]、ディスポーザブル器具[ピペットチップ、チューブ類、フラスコ類;13万円])である。論文別刷代は研究成果の公表・配布に必要である(平成25年度、10万円)。2)国内旅費は第101回日本病理学会総会(平成24年4月予定)、第71回日本癌学会学術総会(平成24年9月予定)、第102回日本病理学会総会(平成25年4月予定)、第72回日本癌学会学術総会(平成25年10月予定)出席のため使用し、平成24年度は研究動向の調査・研究とともに国内専門家との情報交換を行い、平成25年度は研究成果発表を行う予定である。3)病理標本作製にかかる実験補助(1,000円@1ブロックx100ブロック)に謝金等をあてる予定(平成24年度)。4)学内共同施設設置の施設細胞分取装置使用に機器使用料(10万円/年)をあてる(平成24, 25年度)。5)cDNAマイクロアレイ解析を外部委託する(60万円,平成24年度)。
|