研究課題
エフェクターヘルパーT細胞の解析が進み、抗原特異的な抗体の産生過程における濾胞ヘルパーT細胞(Tfh細胞)の重要性が明らかとなってきた。しかしながら一方でヒトのTfh細胞の機能調節機構については未だ不明な点が多く残されており、この領域の発展が望まれている。本研究の目的はヒトTfh細胞の新たな調節機構を探り、もって免疫関連疾患の病態解明や臨床応用に向け研究展開することにある。初年度はヒト胸腺や扁桃の手術材料よりリンパ球サブセットを単離し、Tfh細胞の遺伝子発現プロファイルを検証した。胸腺CD4 T細胞(ナイーブT細胞)と扁桃Tfh細胞のトランスクリプトームを比較検討したところ、Tfh細胞には報告されているBCL6に加えてPOU2AF1(BOB1)が高発現していた。遺伝子改変マウス等の解析からBCL6やPOU2AF1は抗原特異的な抗体の産生に必須であり、こうした転写制御因子はB細胞のみならずTfh細胞も支持していると考えられる。また扁桃肥大を特徴とする睡眠時無呼吸症候群(OSAS)ではTfh細胞が優位に存在していた。さらにOSAS扁桃のTfh細胞をナイーブB細胞、記憶B細胞と共培養すると、Tfh細胞は双方のB細胞サブセットを刺激する機能を有していた。OSASの肥大扁桃の組織学的特徴は拡大した多数のリンパ瀘胞胚中心と瀘胞間リンパ球の多さにあり、今回の実験事実はOSASの成因がTfh細胞機能と密接に関連している可能性を示唆した。またTfh細胞には抑制性ITIMドメインを有するTIGITが細胞表面に高発現しており、Tfh細胞の機能を調節する因子のひとつとして利用することによりOSASの非観血的な治療に結びつく可能性もあろう。本研究からTfh細胞がかかわる慢性疾患の一例が示された。さらなる解析によってTfh関連の免疫病態の制御に向け基礎的知見がもたらされよう。
2: おおむね順調に進展している
初年度の主な研究計画として、ヒトTfh細胞の機能的特徴の解明とともにその細胞表面マーカーの解明をかかげた。前者としてPOU2AF1がTfh細胞の機能調節に与ることを見出し、また後者としてTfh細胞表面のTIGITやCD59を新たに発見した。レーザー顕微鏡を用いた免疫組織化学的解析から検証してみると、対照群としての反復性扁桃炎の組織と比較して、確かにOSAS扁桃ではPOU2AF1(+)CD4(+)の細胞群が有意に存在していた。またT細胞性リンパ腫に関するこれまでの報告からangioimmunoblastic T cell lymphoma(AITL)はTfh細胞由来と考えられているが、我々の見出した結果はAITLが高頻度にPOU2AF1を発現するという報告と一致している。これまでPOU2AF1はB細胞における調節機能として解析されてきた一方で、Tfh細胞における機能的意義は検討されてこなかった。次年度は主にこのようなデータに基づき研究を展開したいと考えている。一方でトランスクリプトーム解析で得られた遺伝子群のアノーテションがまだ完遂していないので、引き続きその遺伝子群についての機能分子解析も併せて進めたい。
次年度も初年度の研究内容を継続して行いたい。具体的にはPOU2AF1とBCL6がどのように協調あるいは関係してヒトTfh細胞の機能を司っているのかを検討したい。そのためには各々のcDNAをレトロウイルスベクターに組み込み、胸腺または扁桃組織のナイーブT細胞やヒトT細胞株を形質転換させて表現型や機能を検討したいと考えており、一部は既に進行中である。そして研究対象を広げ、気管支喘息などの免疫アレルギー疾患に罹患した患者血液におけるTfh細胞の機能的意義を検討する予定である。本研究により得られた実験事実が臨床的に応用されるかどうか、その準備も含めて平成24年度は研究を進めたい。
次年度の研究予算は、前年度と同様に研究試薬などの物品費に用いる予定である。つまり細胞培養試薬、遺伝子導入試薬、抗体類、さらにフローサイトメトリーやウエスタンブロッティング、遺伝子解析に使用する検出試薬も含まれる。ヒト組織を用いた研究はいつ手術材料がくるかわからない場合もあるため、試薬の調整などの事前準備が欠かせない。試薬の種類によっては到着までに数週間かかることもあって、限られた時間の中で効率よく結果を得るためにはよく吟味し考えて研究計画を立て、貴重な予算を執行しなければならないと思っている。
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